女性初の執行役員に就任。役員60人の「紅一点」に

――管理職になって、それまでとどんなところが変わりましたか?

 「自分がやるのではなく、人(部下)がやるようにする」への変化は大きかったです。かつての私のように前向きに仕事に取り組めない部下もいないわけではないですから(笑)。とても難しいですが、叱ることも含めて気づかせることが上司には大事だと思います。

 職場には様々な立場や特性の人がいます。例えば子どもがまだ小さい人や、親や家族が病気で介護している人もいる。またそれぞれ得意不得意があるのは当然です。そうした一人一人のおかれた環境、性格や仕事のやり方はみんな違うということを理解し、それを最大限に生かせる環境にしたいなあと思うようになりましたね。

――2016年に女性初の執行役員になりましたが、社内外からどんな声がありましたか?

 周りからは「女性では初めてだよね」と言われることは多いですね。自分自身はあんまり「女性だから」と考えたことはないのですが。

 こういうインタビューを受けていることもそうですし、「やはり女性の役員というのは、まだ珍しいということだな」と思います。でも「女性にもそういう立場の人がいるんだな」と思ってくれるようになって、周りの人が見る目が変わってきたことを実感します。

 役員60人くらいの中で、現在女性は私一人。まさに「紅一点」ですが、これは他人からみたときの言葉で、中にいる自分は「私が紅一点なんです」とは思わないのです。私が鈍感なんだと思いますけど(笑)

――役員になって意識の変化はありましたか? また、役員の醍醐味はなんでしょう?

 「自分の部署はこうだけど、全社的にはこうだよね」という、俯瞰的な目線をもつということを、以前にも増して意識するようになりました。

 役員だけの会議では、広いフィールドで考える機会というか、いろんな情報を聞けたり、発信したりするチャンスがあります。そして全社的なことにダイレクトに関与できる機会が増えたことは、大きなやりがいに通じていると思います。

――女性ならではの目線が役に立ったことはありますか?

 以前、フロンティア戦略企画部で商品の広告に携わっていたときのことですが、孫世代向けの贈与商品について、ターゲットは祖父母世代なのに、その広告の写真に出ているのはおじいちゃん3人のみ。おばあちゃんがいないことにとても違和感を持ったことがありました。でも、そのことを誰も指摘しないし、何も言わない。自分以外は全員男性の部署だったのですが、男性には違和感がなかったのかもしれません。そういう気づきは女性だからだと思いましたね。

「私にはできない」ではなく、「まずはやってみる」

――日本で女性役員はまだまだ少ないです。増えるためには必要なこととは?

 女性側の意識としては、難しそうな仕事を与えられたら「私にはとてもできない」と遠慮するのではなく、「まずやってみる」ことが大切だと思います。与えている側は「この人ならできるかもしれない」と思ってアサインしているはず。私はそうしています。そう考えてみると前向きになれるのではないでしょうか。

 管理職側も女性を起用する際に、「女性だから、やらせたらかわいそうじゃないか」とか、「お子さんが小さいから、大丈夫かな」と遠慮したり、考えすぎたりしないほうがいいと思います。様々な理由で時間に制約がある人はいますけど、それとこれは別問題として対応すべきだと思いますね。

――いろんな葛藤の中で悩んでいるワーキングマザーに声をかけるとしたら?

 そうですね。ワークングマザーの中にはベビーシッターを使うことに抵抗が強い方もいるように感じます。なんでも自分でやらなくちゃという責任感が強いのでしょう。でも「自分がお迎えにいかなくちゃいけないから、この仕事はできない」ではなく、「週にこの日だけはシッターさんに頼んで、残業しよう」といった発想の転換もありかなと思うんです。ただ、これは個人の価値観に関わる問題なので難しいかもしれませんね。

 私は、息子が中学1年生のとき「子どもの日常のことももっと知っておかないと」と感じ、PTAの役員になって活動しました。たまたま活動が土曜日だったのでできたことなのですが、PTA活動から学ぶことは多かったし、なにより男の子の子育てについての悩みも、先輩ママに相談できて助かりました。

 ただでさえ仕事と子育ての両立は大変です。ましてやPTA活動なんて、と思うかもしれませんが、「やってみたら意外と楽しかった」と感じることもあるはずです。あまりワーキングマザーという意識に縛られ過ぎないことも大切かなと思います。

――最後に役員を目指す女性へのエールをお願いします

 女性だからということでネガティブなことがあっても、発想の転換でピンチをチャンスにできますよ! と強調したいです。

 私は営業部署で女性が一人という状況で、周囲からは最初「何で女性が」と見られていましたが、だからこそお客さまからも1回で名前を覚えてもらえて、それをラッキーと受け止めたことで、仕事も前向きに取り組めました。

 女性であれ男性であれ、どんな仕事でも相手の信頼を得るとことが大事です。「あの人と次も仕事がしたい」と思ってもらえるためには、自分がやってもらえたらうれしいことをやればいいと思います。それは特別なことではなく、「尋ねられたことにはすぐに答える」とか、「明確に答える」などです。相手の立場を考えることが大事なんだと思います。

 組織での仕事は、社内外とも、複数の当事者との合意形成が必要なケースが多いので、なおさら相手の立場を思いやり、どうしたら相手も納得して取り組んでもらえるかを考えながら進めることが必要です。つまり、合意形成力や調整力が大切だと思います。

 私は以前、あるタレントさんのインタビュー記事を読んで、幼少のときお母様から教えられたという心の持ち方「あおいくま――せるな、こるな、ばるな、さるな、けるな」にとても共感しています。管理職の女性と、管理職を目指している女性にも、ぜひ送りたい言葉ですね。

インタビュアー:麓幸子=日経BP総研フェロー、取材&文:船木麻里、撮影:大槻純一

【アクセンチュアの視点】
 キャリアの中でたびたび訪れる転機、相さんはその都度「女性初」という扉を開いてきました。
 そのチャレンジを乗り切るためのキーはネガティブにならない心だと指摘されています。現在も役員の中で「紅一点」の立場にありながら気負いせずにご自身の役割をまっとうされています。
 相さんご自身の経験と今の立場から、管理職側には女性にもチャレンジさせることを、受ける女性の側にもチャレンジする機会がめぐってきたらそれを受けることを強く推奨しています。
 強い心を持ち折れずに仕事に取り組むことが周囲のひとりひとりからの信頼を得る鍵であると思います。