見せる世界を変えてあげることがリーダーの仕事

──昇格して、仕事への取り組み方に変化はありましたか?

及川 課長試験に受かってマネージャーになり、ひとつの目的は遂げてしまった感はありました。当時、私が任されていた事業所の成績は32位中で31位。それを上げていきたいと思ってはいましたが、トップになりたいとまでは思っていませんでした。自分の中の目標設定が低かったということですね。「ベスト10くらいに入ったらいいんじゃない?」と思っていたら、8位まではすぐに上がりました。それでも上司に怒られてしまって。最初は「全国平均よりも高い成績をあげていて、なぜ怒られるの?」と憤慨していました。でも、「優秀なスタッフと強い地盤を与えているのに、ふがいない」と言われ、「そうか、相対ではないな」とやっと気づいて。それで仕事が変わりました。高い目標設定にスタッフからは「本社に言われたからって、及川さんは上を見て仕事をしているの?」と言われたりしましたが、リーダーが見せる世界を変えてあげ、「私たちはできる」とエンパワーメントしてあげることでスタッフも変わります。それがリーダーの仕事だと気づいたのです。人を生かすということがこんなに楽しいことだとわかり、組織を褒められることが自分の喜びに変わっていきました。

──埼玉の事業所の成績を全国2位まで押し上げた後、本社の花形部署である商品企画部長に抜てきされたそうですね。

及川 売る側の立場として商品にあれこれ文句を言っていたら、あろうことか「商品企画部長をやれ」と17年ぶりに本社に戻ることになったわけです。気持ちは現場にあったので、異動して1カ月半くらいは、再び「グレて」いました(笑)。でも、それまで「本社の人にはわからない」と思っていた現場の苦労とは違う組織的な苦労が本社のスタッフにはありました。「なんとかしてあげたい」と、また使命感に燃えてしまったのです。チーム編成を変えたり会議を変えたり。それまで弊社の商品はベストコスメを受賞したことが1回もなかったので、それも目指しました。その結果、いまに続くヒット商品ができ、成功体験がメンバーの中に生まれ、小さな成功の積み重ねでどんどん変わっていったと感じています。

──そうした実績も評価され、43歳で執行役員、45歳で取締役に就任。管理職から執行役員になって、さらに意識は変わられましたか?

及川 商品企画部長は8年務めました。その任期中にもう少し範囲を広げて「宣伝部も見ろ」「デザイン研究室も」ということで執行役員になりました。「POLAブランドの価値を上げたい」という一心で様々なことを提案していたら、いつの間にか、という感じです。そこで気づいたことは、ポストは努力の結果与えられるものではなく、志によって与えられるものだということです。ポストが上がると影響力が上がり、できることが増えてきます。商品企画部長だけの立場で「ブランド価値を変えたい」と言っても、上の人たちがうんと言ってくれないと実現できません。でも、執行役員や取締役の立場で言えば、実現が可能です。そういう意味では、影響力と志はリンクするもの。志を達成しようと思ったら、影響力を増やさなければならないし、同志の数も必要です。