女性活躍推進のカギはオファーの仕方と男性の働き方改革

──山崎さんが、執行役員という立場で意識していること、それまでと変わったことはありますか。

山崎 役員になって以降スキルアップを意識しているのは、スピーチやストーリーテリング、魅力的なプレゼンテーションです。数千人の社員に対して自分の考えを伝え、会社全体を動かしていくためには、私自身が伝達する力、表現する力を持って、求心力を効かせなくてはならないと思っています。変化したことは、出会う人、来るオファーですね。でもこれは、実力によるものではなく役職の持つ力であり、女性役員という立場に対する期待だと思っています。ありがたく恩恵を享受しながら、後進のために道を照らしていくのも私の仕事だと思っています。

──日本の企業では、女性役員はまだまだ少数派です。増やしていくために、企業は何をすべきだと思いますか。

山崎 当社も女性管理職比率は約13%と低いです。それは、女性が役職に就きたがらないというよりも、オファーの仕方が悪いだけなのではないかと私は思います。「役員になってみたいですか?」って聞かれたら、「はい!やりたいです」とは言いにくい。みんな謙虚で、女性としての美徳もありますから。だから、「来年からこのポストはあなたにお願いしたいのです。あなたにはそれに足りる能力があります。権限はこうです。大変だと思いますが、何かあったら私がサポートしますのでよろしくお願いします」と言えばいい。やりたいかやりたくないかではなく、決まっていることをアクセプトするかしないかを問う。アサインメントの仕方次第だと思います。私も、「やってみたい?」と聞かれたことは一度もないです。いつも既決事項で、組織図に名前があるだけです。その代わり、私がやる上で必要な環境は整えてもらうのです。仕事しながら子育てする上で、会社と同じインフラを家に敷いてくださいなど、会社に対して条件を出すのです。一方で、女性活躍のために絶対に必要なのは男性の働き方改革です。妻が家事と子育てを引き受けて時短勤務をし、男性が残業する。この役割分担を変えなければ無理だと思います。男性も育休を取る、家のことや子育ては夫婦で半々にする、それを実現しない限り女性活躍は不可能です。

──最後に、役員を目指す女性が身に付けておくべきことについてのアドバイス、エールをお願いします。

山崎 女性って、プレイヤーとして優秀である人の多くが、右脳とハートを使って仕事をしているのではないでしょうか。感受性が豊かで、人の気持ちに寄り添うことができ、集中力が高く、当事者意識を持って課題に取り組むことができる。だからこそ、いろいろな壁にぶつかって迷い、悩むのです。ただ、管理職という立場においてはそれだけでは不足していて、物事を俯瞰して見る、客観的に捉える力が求められます。言われれば分かるのですが、そう簡単にできることではありません。感性で考えていたことを理性でコントロールするのに必要なのは左脳を鍛えること。合理性とか、計数化する能力を鍛えることによって、右脳とハートだけで感じていたものがものすごくクリアになり、冷静になれます。私は、ビジネススクールに通って会計を学び、自分になかった言語を持ったことで、それができるようになりました。管理職は、仕事を頑張った結果あるもの、現状の仕事の延長線上にあるものではありません。やはり、一定の学びが必要です。仕事の性質の違いを理解すると同時に、自己認識を深め、自分の弱いところを補う努力をして欲しいと思います。


 自分が得意なことや足りないことを常に冷静に見極め、時にはビジネススクールでも学びながら、経営者としてのスキルを身につけていった山崎さん。自分がやりたいことを実現するためには、第三者的な視点を持つことも重要だと気づかされます。
 山崎さんがおっしゃるように、出産や育児をしながら働き続け、さらにステップアップしていくには、ストレスもある中で常に良いコンディションを保つこと、そしてどんな時もコンスタントにアウトプットできるようにするという意識が肝要です。

(取材・文/鈴木友紀 写真/木村和敬)