ユナイテッドアローズでは女性初、最年少で2010年に執行役員に就任した山崎万里子氏。アルバイトから社員になって20年以上、同社の創生期から現在までを内側から見続けた人物の一人でもある。そんな山崎氏も、当初は特段キャリア志向ではなかったというが、どんな経緯、転機を経てここまで歩んできたのか。そして今、女性役員としてどんな思いを抱いているのか。話を聞いた。

得意なことを追求した先にあった管理職という道

──山崎さんは、学生時代のアルバイトをきっかけに新卒でユナイテッドアローズに入社されたそうですね。それほどまでに会社に魅了されたということなのでしょうか。

山崎 会社としてというよりも、ブランドとしての魅力を感じていました。私がユナイテッドアローズを知ったのは高校生の時。出身地である福岡に、ユナイテッドアローズとしては2店舗目となるお店ができたのです。当時はまだ目新しかったセレクトショップ。そのかっこよさに惹かれて足を運ぶようになったのですが、お店に行くと、私より10歳くらい年上のスタッフが、明らかに高校生の私を一人のお客、大人としてきちんと扱ってくれるのです。私はそれにものすごく感動し、彼らみたいになりたいなと憧れを抱いていました。その後、大学入学と同時に上京した私は、原宿のお店に通うようになりました。そしてある時、店頭でたまたまアルバイト募集の告知を発見したのです。私は、憧れのお店で働いてみたい、あの人たちの仲間になりたいという思いで応募。アルバイトとして3年間働きました。就職に際しては、アルバイト時代から将来のキャリアプランを描いていたというようなことはまったくなく、会社から「新卒採用にエントリーしてみないか」と声をかけられたので応募してみたという感じ。最終的に就職を決めたのは、ファッションが好き、ユナイテッドアローズが好きだったから。あまり深く考えておらず、就職した自覚も乏しかったですね。

山崎万里子(やまさき・まりこ)さん
株式会社ユナイテッドアローズ 執行役員 人事部担当

1973年、福岡県生まれ。学習院大学経済学部経営学科在学中の3年間、ユナイテッドアローズでアルバイトを経験し、1996年の卒業と同時に社員として入社する。その後10年以上にわたり、販売促進、広告宣伝に従事。そして2008年に経営開発本部経営企画部部長に、2010年には同社女性初の執行役員に就任し、現在に至る。組織における女性の活躍、働き方にも関心が高く、2013年に著書『仕事の不安を一つひとつツブしていくやり方』(毎日新聞社)を出版。

──それは意外ですね。就職して社員になってみて、アルバイトのときと何か変化はありましたか。

山崎 社員として配属された先は、アルバイト時代と同じ販売促進部でした。すでに3年間の経験があった私は、もはや一人前であると錯覚していたんです。でもそれは、あくまでもアルバイトとしての経験。社員になったとたんにそれまで許してもらえていたことが許してもらえなくなったり、良い意味での下働きをさせられる現実に、自分の思い込みを壊すこと、自分が社会人として半人前であることを認めるのに苦労しました。

──キャリアについて考える最初のきっかけになったのですね。

山崎 そうですね。でも、本当の意味で壁にぶつかったのは20代後半でした。入社してからずっと広報、宣伝、販促などに関わってきた私は、20代後半には、その分野の仕事においては一番できる人になっているという自負がありました。ただ、PRとか広告宣伝の仕事って、プランニングするだけでなく表現者であることもすごく大事ですよね。ちょうどその頃、そういうものに対し光り輝く才能を持った後輩がどんどん増えてきているのを肌で感じていました。私は彼らには全然勝てない。今の時点で経験は一番あるけれど、数年経ったらきっと私はこの子たちに追い抜かれる。私がここに居る意義はもうない、早く違う場所に行かなければ、そう思ったのです。

──それで管理職を目指すことにしたのですか。

山崎 管理職になりたかったわけではありませんが、私が得意なこと、彼らよりも秀でていることは何かと考えたら、プランニングやタスク管理、人員管理、スケジュール管理など、チームを動かすこと、マネジメントだった。そういった仕事が特に好きというわけではないけれど、会社における生存競争の中で、私に有利に働くのはそれだということに気づいたのです。それからは、前に出る仕事ではなく管理する仕事を、勝手に率先してやっていました。で、やっぱり向いているなと。これからは得意なことをやろうと。その方が上手くいくし楽しめますからね。そうして、いずれは管理職になれればいいなと思うようになりました。

──自ら道を切り拓いていったのですね。その後、どんな経緯で管理職に就かれたのですか。

山崎 当社は、役職はありますが、それがイコール出世ではないんです。だから、管理職を目指すコースは実はないのです。適性を見てアサインされる。だから、簡単にはずされもします。私は、半年に1回の上司との面談の中で、そういう志向があるということは伝えていました。ここに異動させてくださいとか、管理職になりたいとかではなく、次はこういうことをやってみたいと。そうしたら、ある時アサインされたのです。そんな具合なので、管理職になったことに対しては、特にプレッシャーは感じなかったですね。もともと実質的にそういう仕事をしていたからだとも思います。