ビジョンを持ち、そのために必要なことは何かを考え抜くこと

――日本では女性の管理職登用は少しずつ進んでいますが、役員となるとまだ数は非常に少ないのが現状です。女性の社会参画を経営層レベルにまで広げ、ダイバーシティを前に進めるためには、何が課題でしょうか。

櫻田 第一にはトップが危機感を持つことです。ただ、私はものすごく危機感を持っていますが、結果が出ているかというとまだまだです。だから危機感だけでは全然足りません。

 そこで次に必要なのが、危機感が結果につながるような土壌です。役員になりたいと思っている、役員になれるポテンシャルを持っている女性の母集団を増やしていく。とはいえ、当然ですが人材の育成には時間がかかります。まずは課長の経験を積み、その次に部長、そして役員へと、まさに子どものように育てていかないといけないわけで、最低でも10年が必要。つまり、今やり始めたとしても自然な形で成果が出るのは2028年ということになります。そこで、ファストトラック(早期選抜制度)でスピードアップするか、あるいは外部人材を登用するといった方法も出てきます。

 そして最後は、こういう言い方をすると怒られるかもしれませんが、「男性側の嫉妬心をどうやってつぶしていくか」だと思います。これはよく使う例なのですが、なぜ日本では男性が主夫をやることが当たり前でないのでしょうか。夫婦の話し合いのもとで「これから10年は僕が主夫をやるから、その後は君ね」みたいなことがあってもいいし、夫にはライフワークとしてやりたいことがあって、それを続けながら家事・育児は全部引き受けるというのでも全く構わないわけです。海外では、こういう夫婦はたくさんいる。でも日本でやると「男のくせに」などと言われます。

 トップの危機意識、女性の母集団を増やす、「男のくせに」「男だから」というような役割意識やプライドを壊す。この三つを同時に進めていかなくてはいけないと思います。

――女性は優秀なのになかなか自信が持てない人が多いと言われます。また、管理職になりたくないという声も少なくありません。昇進をためらっている女性たちの背中をどう押してあげればいいでしょうか。

櫻田 上に行ったほうが楽ですよ。大変なんていうのは嘘。男性が昇進したがるのは、楽だと知っているからです。まず、役員には就業規則がないですから、何時に来ようと何時に帰ろうと構わない(笑)。パワーポイントで図を描いたり、エクセルに数字を入力したりといった実務的な作業もしなくて済みます。

 ただし、与えられたミッションを遂行できなかったら、極端に言うと1年で去ることもあるかもしれない。その覚悟をちゃんとして、自分の役割は何かということさえはっきりつかんでしまえば、やるべき仕事に集中しやすくなります。そういう意味で「厳しいけど楽」です。だから早く上に上がったほうがいい。視界が変わってきますよ。