「これがやりたい」と思えることがいっぱいある会社に入れてよかった

──壁にぶつかったことはないとのことでしたが、では会社を辞めたいと思ったことはなかったのでしょうか?

田代 実は、1回だけあります。ロンドン赴任中、アジア危機で市場が急激に収縮し、前向きに取り組める仕事が少なくなったので、そろそろ日本に帰りたいなと考えるように。「もし、帰してくれなかったら、会社を辞めようかな」と思いました。でも、そんな気持ちも日本に戻してもらったことですぐに消えました。そもそも会社が嫌だったわけではないので、後にも先にも、その1回だけです。一緒に働きたいと思える仲間がたくさんいて、週末になっても「月曜日にまたみんなと働きたい」と思う。そんな日々でした。

──それは素晴らしいですね! もともと楽天的な性格でいらっしゃるのですか?

田代 そうですね。天性の楽天家だと思います(笑)。大変だと思っても、普通に生活をしていて、命に関わるようなことってほとんどないじゃないですか。だから、大変でも死ぬわけじゃないし、明日はやってくると思うタイプです。何か問題があっても、どうしたら今の状況を少しでも良くできるかを考えます。もともと、世の中は「公正公平」なことばかりではないという前提でいるんです。学校でも相性のいい先生がいれば、そうじゃない先生もいるし、フェアな状況なんてそもそもないんじゃないかな、という考えからスタートしているので、会社に入ってからも「上司の理解がない」とか「女性に理解がない」といったことで悩むこともなく、「それ以前にもっといろいろ問題があるんじゃない?」と……。楽天的な考え方の根源はそこにあるのではないかと思います。それが仕事を続けるうえで活かされたのかもしれません。

──2009年には、田代さんを含め、4人の女性が同時に役員に昇格されました。役員になられてからは、心境に何か変化がありましたか?

田代 役員になる以前の部長になる時に、人の評価をする立場になるということに、とても責任を感じました。役員になるということは、配下になる人たちがさらに増えるので、より一層その責任も重くなると認識しました。

──女性が活躍できる環境を選んで就職されたということですが、入社当時から管理職や役員を目指すような目標があったのですか?

田代 まったく意識していませんでした。ただ、自分がやりたいことについては、ずっと言い続けてきました。留学から帰ってきた時に「アジアで仕事がしたい」と言ってみたり、イギリスから帰ってきてしばらくはIRを担当していましたが、「やったことないから、リテールに行ってみたい」と言ってみたり。そこでやりたいことがあるということが大事なのかなと思います。そういう意味では証券会社に入って本当によかったと思っています。「あれもやりたい」「これもやりたい」と思えることがいっぱいある業界ですから。