パネルディスカッション

責任と充実感は比例する。それが「役員」の仕事――

パネリストの現役女性役員4人
アクセンチュア執行役員
堀江章子さん
新卒でアクセンチュアに入社。2014年から執行役員。アジア・パシフィック地域の証券グループの統括を務めながら、多様な人材がリーダーとして力を発揮できる組織作りに尽力している。

三菱UFJ信託銀行執行役員
相 幸子さん
東京大学卒業後、三菱信託銀行(当時)入社。法人営業、経営企画部、新規ビジネス開発部署などを経て、2015年に新設された法人コンサルティング部の部長に就任。2016年6月現職。

サントリーウエルネス専務取締役
折井雅子さん
東京大学卒業後、サントリー入社。お客様コミュニケーション部長、人事本部副本部長などを経て2012年、サントリーホールディングス執行役員。2016年4月よりサントリーウエルネス専務取締役も務める。

グーグル専務執行役員
岩村水樹さん
東京大学卒、スタンフォード大学修了(MBA)。ネットベンチャー、ラグジュリーブランド等で取締役、CEO職などを務め2007年から現職。Forbesの「世界で活躍する日本女性55人」に選出される。
司会
アクセンチュア マネジング・ディレクター
小林珠恵さん
ハイテク業界を中心にデジタルトランスフォーメーション、IoTビジネスの新規立ち上げ支援、幅広いコンサルティングを実施。公認会計士。
先駆者たちが語る、「役員になった後に女性を待っているもの」
■役員になって驚いたことは?■
「役員は常に見られていることを実感した」(岩村さん)
「女性を役員にすること自体、時代の変化を感じた」「ずらりと並んだ男性役員を目の当たりにして、女性は“マイノリティ”であることを再認識した」「出会える人のスケールも幅も大きくなり、新たな刺激や感動を得られた」(折井さん) 「経営の中枢に関わる情報にいち早く接するようになった」「お客様の自分への期待が変わった」「求められるスキルが変わった」(堀江さん)
■役員に求められる素質とは?■
「“人間力”。成長への変わらぬ意欲と変化への勇気、新しいことを吸収して“ストック”を増やしていく姿勢」「会社を『主語』として考える視野の広さ」(折井さん)
「結果へのこだわり」「交渉力。主張を通せないと部下の評価まで下げてしまう」(堀江さん)
「交渉力。仕事には必ず対立点が発生する」「『次も一緒に働きたい』と思わせる真摯さ、真面目さ」「俊敏性。即断即決を求められる場面が増える」(相さん)
■仕事で重視することは?■
「『チームを家族に、家族をチームに』という考えでいること」「柔軟に働くための仕組みづくり」(岩村さん)
「決断すること」「全体観」「“なるべく”逃げない」「新しもの好きでいる」(折井さん)
「一生懸命な時は自分自身で気づかなくとも『きっと成長しているはず』と信じること」(相さん)
「誠実であること、信頼される人であること」「タイミングを見極めること」(堀江さん)
4人の女性役員が、会場を埋めた「未来の役員」にアドバイスを送った(左から岩村さん、折井さん、相さん、堀江さん)
4人の女性役員が、会場を埋めた「未来の役員」にアドバイスを送った(左から岩村さん、折井さん、相さん、堀江さん)

 セミナーのクライマックスは、異なる業界で活躍する4人の女性役員によるパネルディスカッション。グーグルの専務執行役員・岩村水樹さん、サントリーウエルネスの専務取締役・折井雅子さん、三菱UFJ信託銀行の執行役員・相幸子さん、そしてアクセンチュアの堀江さん。日本の企業社会における、女性リーダーの“トップランナー”たちはどんな体験をし、何を考えてきたのか。道を切り開いてきた彼女たちの言葉は、会場を埋めた女性たちの羅針盤となるはずだ。

 ディスカッションは自らも女性役員の“候補生”である、アクセンチュアのマネジング・ディレクター、小林珠恵さんの司会で進められた。大きなテーマは(1)役員になって驚いたこと、(2)役員に求められる素質、能力、(3)仕事上、重視している点の3つ(個別の回答はページ上)。

 (1)の「役員になって驚いたこと」に共通して言えるのは「お客様の自分への期待が変わった」(堀江さん)ことも大きいが、何よりも「見える風景が変わった」ということだ。未知の世界、しかも前例さえほとんどなかった世界に飛び込んだ者でしか感じ得ない驚きが、実感を持って聞き手に伝わってきた。

 (2)の「役員に求められる素質、能力」ではバラエティに富んだ回答が寄せられたが、大きくまとめると、「『自分』ではなく『会社』を主語として思考し行動できること」であり、それを支える個々のスキルが前ページの「リーダーに必要な8つの能力」といえるだろう。能力を磨くだけでなく、折井さんや相さんが指摘した、視野の広さや人間性を高めることの重要性については、言うまでもない。

 (3)の「仕事上、重視している点」は全員が共通して、気持ちのあり方について言及していたのが興味深かった。また、岩村さんの「(女性役員の)ロールモデルであることを意識して行動する」という言葉からは、先駆者としての責任感が伝わってきた。

 ディスカッションの最後は、役員を目指す女性たちへのメッセージで締めくくられた。

 壇上の4人からは、「チャレンジこそが成長の機会。妥協は後悔のもと」「自分の人生のCEOになってほしい」(岩村さん)、「(役員という)世界が広がり、成長できる舞台を恐れずに求めていってほしい」(折井さん)、「ベストパフォーマンスを達成するためにも『どうすれば』を考え抜いてほしい」「常に誠実さを忘れないで」(相さん)、「志を低く設定しないで、常に本当にやりたいことと向き合ってほしい」「よく寝てよく食べる。元気な人は多少のことでは負けない」(堀江さん)と多くの、しかし非常に普遍的なアドバイスが寄せられた。

 パネリストを務めてくれた4人の女性役員から伝わってきたのは、重責を背負いながらも仕事を楽しんでいる様子だった。昇進するとともに仕事の幅が広がり、自分で決められることが増えていく。それは、自分で自由に人生を作っていくことにつながるのだ。4人から伝わる充実感は、会場を埋めたキャリアアップを目指す女性たちが迷いを感じ、ふと立ち止まった時に、ポンと背中を押す役割を果たしてくれるに違いない。