努力は大事。でも、頑張り過ぎない

──今のご自身の立場や視点から、日本の企業に女性役員を増やすにはどうしたらいいと思われますか。

長﨑 まずは女性自身がもっと努力をすることだと思います。まだ女性は意識が甘いケースがあると思います。同じマネージャーのポジションにいても、女性は自分のグループのことしか見ていなかったり、自分のスキルを上げる努力をしていなかったり、もっと人とコミュニケーションをとる方が業務運営はスムーズになるのにその覚悟がなかったり。そういうことができれば、男性・女性関係なく引き上げられると思います。世の中や企業からの期待に十分に応えられる女性のボリュームが、まだ圧倒的に少ないですよね。一方で企業側は、育児と家庭の両立のための施策を打つだけでなく、育休後に復帰した女性ができるだけ早く第一線に戻れるようバックアップをすべきだと思います。例えば会社に子どもを連れて来られるようにするとか、やり方はいろいろあると思います。

──女性の人生においては、出産や育児などで、努力したくてもできない時期というのもあると思います。仕事と家庭の両立という点において、ご自身の経験からアドバイスはありますか。

長﨑 私は子どもが2人いるので、産休・育休は2回ずつとりました。休んでいる間は1ミリも仕事をしませんでした。復帰後は、育児も仕事もゆるい感じで、もちろん両立なんてできていなかったです。仕事も育児も家庭も5点満点なら、オール『2』でも3つを足して『6』になるならいいやみたいな。仕事のストレスは育児で解消し、育児や家事のストレスは仕事で息抜きしながらやっていました。2つのまったく違うアクションを交互にすることが、私にとってはよかった。大変でしたけれど、あの時間は悪くない時間だったと思います。私もそうでしたが、この時期は自分が思うような一人前の仕事ができない、その割には家族に迷惑をかけたり、子どもには「お母さんはいつもいない」と言われて悩んでしまいがちですよね。でも、仕事においても家庭においても、ここが踏ん張りどころだっていう時もあれば、分かっていてももうダメだっていう時もある。それはみんな同じ。努力は、できる時にできる範囲でやればいいのです。そして、そんな自分を認めてあげることも大切だと思います。私は働く母に育てられたのですが、母と一緒にいた時間の長さよりも、愛されて育ったということの方がずっと大事だと実感しています。

──最後に、働く女性、役員を目指す女性にエールをお願いします。

長﨑 人生も会社の生活も、短距離走というよりもマラソンです。100mに爆発的な力を発揮することも一つのアウトプットだとは思いますが、ピッチを守りながら42.195kmを走ることの方が大事です。決してどこかでくさったり、誰も見てくれないといじけたり、斜めに構えたりせず、ピッチを刻み続けていくことが、長い目で見ると大きな成果をうむと思います。


アクセンチュアの視点
 人生も会社の生活も、マラソンのように一定のピッチを刻み続けることが重要だという長﨑さん。
 自分に与えられた役割や業務をゲームのようにこなしてきたとクールにお話をなさっていますが、そのエピソードからは、どのような役割であっても苦手や課題を克服してきた、努力家の一面が垣間見えます。
 女性たちはもっと努力をするべきだという叱咤激励の言葉もある一方、努力はできる時にできる範囲でやればよい、ともおっしゃいます。長﨑さんのように客観的に自分の状況を認め、その中で努力を積み重ねていくと、新しい世界が開けるのかもしれません。

取材・文/鈴木友紀 写真/木村和敬