育児と両立しながら、キャリアもスキルも諦めない環境を

──サイトの運営も軌道に乗り、パワフルに活躍されてきたなか、40代になってから出産をされましたね。

山田 40歳で出産するまで、自分が女性であるということをあまり意識することなく、仕事をするうえで男女は関係ないと思って働いてきました。創業時には会社に寝袋があるような状況で(笑)。忙しく厳しい環境ではありましたが、サービスが広がっていくことに楽しみとやりがいしかなく、使命感を持って全力投球してきました。でも、子供を抱えながら働き始めてみたら、物理的に同じような働き方はできなくて。当然のことなのですが、子供を持つ前は分かっているようで分かっていなかったんですね。産後すぐに子供を預けて仕事に戻ったのですが、ひどい乳腺炎を患い、さらに悪化したら手術が必要になるとも言われました。助産院に駆け込んでケアしてもらいながらしのごうとしたけれど、やはり無理で。そうこうしているうちに、自分の身体は思い通りにならないし、子供の面倒が見たいけれど、仕事も気になるし……、という悪循環で精神的にも参ってしまって。経営陣に相談して、改めて育休として4カ月間休ませてもらうことになりました。自分の無知が原因で迷惑をかけてしまうことになりましたが、休んだことで体調は復活し、育児と仕事の両立も体感としてペースがつかめてくるようになりました。

──出産後は、ご自身の働き方も変わりましたか?

山田 何より実感したのは時間の大切さです。ワーカーホリックを自認していて、好きでやっていたので、やろうと思えばいくらでもできるというスタンスで働いていました。でも、複数のことを抱えながらベストな状態を継続させていくには、仕事でも育児でもいかに生産性を高めて、ロスタイムをなくすかが重要です。今は、アウトソースできるサービスを提供している会社がいろいろあるので、そういったものも利用しながら、ひとりで抱えこまず、経営も育児もいかに頼れる仲間を増やすか。そうしたチームをつくることが、結果的に周りに迷惑をかけないことにつながると思っています。

──2016年にコンテンツ制作などを行う子会社のISパートナーズを設立されていますが、その立ち上げには、山田さんご自身の経験が活かされているのでしょうか。

山田 そうですね。ちょうど2人目の出産をして、3カ月くらい休んで復帰した直後に、ISパートナーズを立ち上げました。自分が出産して両立して働く中で痛感したのは、働きたいという意欲がある方でも時間の融通がある程度きかないと両立は非常に難しいということ。自分は立場上、スケジュールのコントロールが比較的しやすく、子供を寝かしつけてから深夜にメールを確認して必要な返事をするといったタイムマネジメントもできます。でも、お勤めをされている方は時短を取得しない限り難しく、通勤もロスタイムになります。震災の時に子供と連絡が取れず心配だったという声なども聞いたことがあります。それなら、職住近接で、ある程度柔軟な枠組みで時間のコントロールができ、キャリアアップやスキルアップも諦めない働き方ができればいいのではないかと考えました。

──ISパートナーズは千葉県流山市にオフィスを構えていますが、その理由は?

山田 その頃、本社勤務の女性社員が、いわゆる「学童の壁」に直面し、このまま就業を続けるのは難しくなったという話がありました。その女性が流山市在住だったんです。聞いてみると、20代30代のファミリー層の流入がとても多いエリアで、東京への通勤が難しくなり辞めてしまうスキルフルなビジネスウーマンがたくさんいるらしい。市としても創業支援や女性が働き続けられる環境づくりに力を入れているということも知りました。そういった経緯で流山市にオフィスを構えることに決め、近隣の女性たちを雇用しました。朝5時から夜10時までの間で働く時間を自由に選べるスーパーフレックス制で、業務に支障がない範囲で中抜けもOK。子供のことをある程度終わらせてから、夜にまた働く方もいます。1時間通勤電車に揺られることもなく、自分の働ける時間を最大限使ってもらえ、やる気さえあれば、8時間働くことも不可能ではなくなります。未経験者でも必要な知識やスキルはオンライン、オフラインを組み合わせつつ提供することができます。最近は、ある程度の経験者で完全テレワークの方も出てきており、拠点のない地域で働いてもらう道も見えてきました。それらの取り組みで成功体験を得たので、本社でもテレワークを全社的に導入。本社の働き方を変えていくうえでも、小さな組織でトライアルできたのはよかったと思っています。