関心事が多いほど、世界に適応できる

 例えば、マレーシア料理が好きでも嫌いでも構いませんが、マレーシア料理を好きな人は、嫌いな人が知らない快楽を知っていることになります。「その限りにおいて、前者の人生のほうが楽しいし、両者が暮らさなければならない世界によりよく適応していることになる」。関心を寄せるものが多ければ多いほど、ますます幸福になるチャンスが多くなるということです。

 ただし、相談者のように「人生を懸けるもの」を見つけることは簡単ではありません。過度な刺激を求めることも、また、いけないのです。人は刺激を求めれば、もっと強い刺激が欲しくなる。コショウ中毒になってしまいます。

コショウ中毒に陥らないためには、バランス思考が大切

 辛いものが好きな人は、辛さに慣れるとより辛いものを求めるようになります。「多すぎる興奮に慣れっこになった人は、コショウを病的に欲しがる人に似ている。そんな人は、ついには、他の人なら誰でもむせるほどの多量のコショウさえ味が分からなくなる」とラッセルは『幸福論』に書いています。

 せっかく興味の対象を見つけても、「もっと他にあるはず」と振り回されていたら、幸福にはなれません。ある程度は退屈に慣れないと幸せにはなれないのです。そして、幸せになるための興味の対象は、仕事ではありません。第一線で働いている今は、「もっと大きな仕事を手掛けたい」「20年後も働き続けられる資格を身に付けたい」「さらなる自己啓発をしたい」など、仕事優位に考えがちですが、趣味のほうが大切だというのがラッセルです。仕事がどれだけ充実していても、趣味のない人は不幸だというのです。

哲学KeyWord:バランス思考
『幸福論』の原題は、「The Conquest of Happiness」。不幸を避け、幸福を獲得するためには中庸を守るバランス感覚が大切。例えば、「努力とあきらめ」。避けられない不幸に時間と感情を浪費するよりも、潔くあきらめ次の幸せを目指して可能なことに振り向けることで人生はよりよく進む。