「積極的な諦め」で、今追うべきものに気持ちを向かわせる

 では、いったいどうすればいいのか。ショーペンハウアーは「諦めたほうが幸せになれるよ」というのです。

 実は彼自身「諦めること」で、幸せをつかんだ人物です。30代でベルリン大学の講師になったショーペンハウアーは、当時、大人気のベルリン大学教授・ヘーゲル(ドイツ観念論の大成者)と勝負をしようと、同じ時間に講義を持ったのですが、学生たちはみなヘーゲルの講義に行ってしまいます。当時は、講義に出た学生がお金を払っていたので、受講者が集まらなければ収入も得られません。失意の彼は戦い続けるのではなく、諦めて大学を去る道を選んだのです。

 それでも、晩年は学者として活躍し、その後、哲学者のニーチェらに多大な影響を与えているのです。

富を際限なく求める苦しみから逃れる肝は「積極的な諦め」にあるそうです
富を際限なく求める苦しみから逃れる肝は「積極的な諦め」にあるそうです

 諦めることで、何かを失うわけではありません。ショーペンハウアーが説く諦めは、よりよい人生を送るための積極的なもの。金銭欲という際限のない苦しさに拘泥せずに、諦めて次のステージに向かえばいいのです。彼はこう指摘しています。

「富は我々の幸福にはほとんど何の寄与するところもない」
「金銭は人間の抽象的な幸福である。だから、もはや具体的に幸福を享楽する能力がなくなった人は、その心を全部金銭にかけるのだ」

哲学KeyWord:意志と表象
世界は、自分自身の主観が描いたもの=表象にすぎない。無意識的なものだからこそ、際限なく生じ、欲求は満たされず苦痛に満ちている。苦悩から解放されるためには、意志を否定し固執を消し去るしかない。仏教的な諦念こそ究極の目標であり世界からの解脱であるとした。