「隣のテーブルに座る人の箸の使い方」は注意しない

 そして、「もし自分の部下がこんな段取りの悪い会議をしていたら、注意するのに!」と思うその発想を変えることも大切です。つい「活動」に仕事のスタンスを持ち込んでしまいそうになりますが、社会活動は、家庭や職場のような閉じた場ではなく、公共の場であると認識しましょう。レストランで隣のテーブルの人の箸の持ち方や食べる順番を注意する人はいませんよね。公共の場なら隣の人が違うことをするのは当たり前だからです。

 では、そうした人たちとどう付き合っていくかと言えば、コミュニケーションをとる以外にはありません。どうして意見が合わないのか、その人が何を考えているのか、話さないとお互いの理解は進みません。私とあなたは別の人間で、言葉をやりとりする関係性があるから、活動ができるのです。こう考えれば私たちの態度も開かれていく。作業がもっとスムーズにいくのではないでしょうか。

本紹介
もっとアーレント!
『ハンナ・アーレント』(映画)

ナチス戦犯の一人アイヒマンの裁判を傍聴したアーレントは、『イェルサレムのアイヒマン』を出版。人類史上類を見ない惨劇は、思考停止した凡庸な人間の行動と結論付け、同時に一部のユダヤ人指導者が協力していたことで犠牲者が増えたと指摘した。どれほど非難され親友との仲が断絶しても、思考を止めずに丁寧に説明を続ける姿を描いた映画。日本では2013年に公開された。

取材・文/中城邦子 イラスト/鈴木衣津子 写真/洞澤佐智子