アーレントはユダヤ人の友人やコミュニティーから激しい非難を浴びましたが、自分が正しいと思ったことは言わないと、悪しき歴史が繰り返されてしまうという信念を持って言い続けました。

 思考の停止した全体主義のイデオロギーに支配されてしまわないために、そして人間らしく生きていくために、私たちはどうしたらいいのか。それこそが、相談者が参加しているような社会活動だとアーレント言うのです。

「活動」を取り入れてこそ、人間らしい生活になる

 アーレントは著書『人間の条件』のなかで、人間の営みを3つの側面から捉えています。労働(labor)、仕事(work)、活動(action)です。

 「労働」は、人が生きていくために必要なものを生み出す行為。食事を作る、洗濯をするなど、生活と密接で生きるために必要な行為。家事労働などにあたります。

 「仕事」は、生活を向上させるための活動や、すぐには消費されないものを生産する行為で、道具や建築物などの成果物を残します。

 そして、彼女が最も重視したのが「活動」です。草の根の政治活動や地域活動、ボランティア活動などを指します。

 アーレントによれば、人間は政治的な動物で、共同体で議論してものごとを決め、共に支え合っていく存在。人間にとって「活動」は不可欠であり、労働や仕事だけでなく、「活動」を取り入れた生活こそが人間らしい生活なのです。

 なぜなら、「活動」には“複数性”があるからです。家庭や職場、趣味のサークルとは違い、自分とは異なる生活環境、価値観の人、異なる意見があり得る場所です。そういう場がないと世の中は開かれていきません。そう意識すれば、みんなの意見を聞くことも「ムダな時間」ではないと思えるのではないでしょうか。

「映画『ハンナ・アーレント』では苦悩しながらも、自分を貫き通す強さを持ったアーレントが世間と戦う姿が描かれます。ARIA世代の皆さんにぜひ見てほしい映画です」(小川さん)
「映画『ハンナ・アーレント』では苦悩しながらも、自分を貫き通す強さを持ったアーレントが世間と戦う姿が描かれます。ARIA世代の皆さんにぜひ見てほしい映画です」(小川さん)