結婚後、初めて扶養から外れた喜びを実感

 働き始めて1年後、頑張りが認められた神谷さんは正社員に昇格。給料が上がり、結婚以来、初めて夫の扶養から外れた。「扶養から外れたのは、正社員になれたのと同じくらいうれしかった。主婦という枠を超え、自由になった気がしました」

 予想外の展開はさらに続いた。今度はPR担当に任命されたのだ。「最初はプレスリリースが何かも分からない状態。外部のPRコンサルタントの講習を受け、猛勉強しました」。もともと文章を書くのが好きだった神谷さんは、持ち前の好奇心で、会社のサービスのみならず、社内の小ネタも掘り起こして発信。ユニークな取り組みのリリースを継続的に発信し、雑誌やニュース番組の取材が相次いだ。

「アラフィフ販売員」として和装メーカーに転職

 やりがいある仕事を任され「私は恵まれていた」と神谷さんは振り返る。だが隣席同士でもチャットでやりとりする「IT企業のコミュニケーションの作法」に、物足りなさを感じ始めた。「そろそろ人と会って話す仕事もしてみたい、という気持ちが芽生えてきました」

 そんな頃、長女の成人式の振り袖を借りようと訪れた和装レンタル店で店長と意気投合。「若い女性に人気の新興和装メーカーでした。対面販売が当たり前の和装業界にWEBマーケティングを本格導入すれば、売り上げをさらに伸ばせるのではと感じました」。

 ちょうど店では販売員を募集中。成人式を迎える女性に友達感覚で接客できる世代が条件だったが、「母親目線で接客できる人材も必要」と、店長が神谷さんを本社に推薦してくれた。このとき、神谷さんは50歳。またも年齢の壁を越え、同社初の「アラフィフ販売員」として採用された。

 しかし、待っていたのは厳しい売り上げ目標を達成する能力。「販売員はすご腕ぞろい。売り上げ目標を達成するため、月初めに行動計画書を作成します。その行動計画が日々の動きと合致しているかを毎日報告。自分で数字を作る難しさと厳しさに心が折れそうな日が続きましたが、実績を挙げるために必死で働きました。大変ではありましたが、行動計画を立ててそれを実行していくという経験は、今の仕事をしていく上でとても役に立っています」