「稼ぐ」ことより大事な「仕事をしている」という感覚

 「当時、夫も転職して激務となり、深夜帰宅が続いていたため、午前0時ごろから夕食をつくり、夫婦で食べていました」。深夜の食卓を囲みながら、堀さんの夫は自分の仕事のことをあれこれ話して聞かせたという。「専業主婦になった私に外の出来事を聞かせて、社会人としての感覚が鈍らないように気づかってくれていました。もしかしたら、夫はただ自分が話したかっただけかもしれませんが(笑)。でも、そのときは社会との接点が感じられて、うれしい時間でしたね」

 税理士法人の在宅業務を1年間続けた堀さん。「稼いだお金は、扶養の範囲内なので微々たる金額」とは言うものの、頑張った自分へのご褒美を買うこともできたはず。使い道を聞いてみると「実は、振り込まれたまま、ほったらかしなんです」と驚きの返事。

「振り込まれたままの給料は、休眠口座にならないように把握はしています(笑)。ただ当時の私は、『稼ぐ』より『仕事をしている』という感覚を持つことのほうが大事だったんです」
「振り込まれたままの給料は、休眠口座にならないように把握はしています(笑)。ただ当時の私は、『稼ぐ』より『仕事をしている』という感覚を持つことのほうが大事だったんです」

 「出産を機に専業主婦になりましたが、『いつか復帰するために、ブランクはせめて5年でストップしておこう』という気持ちがありました。雇う側にしてみたら、10年もブランクがある人材は不安でしょうし。幼児の子育て真っ最中で疲れていても、たとえ扶養の範囲内で稼ぎは微々たるものでも、深夜の在宅業務を頑張れたのは、『いつか仕事に復帰するため』。これが大きな理由です」。堀さんが、子育てをしながら働き直しをすることで求めていたのは、「自分だけの稼ぎ」という目先のものではなく、あくまで「一生の仕事」と「社会との接点」だったのだ。

 このまま在宅業務を続けていれば、いずれは完全復帰できるかも──。そう考えていた矢先、夫のインドネシア赴任が決まった。堀さんにとっては二度目の完全専業主婦としての生活。だが、家族全員で慣れない異国の地で暮らすのは、想像以上に大変だった。「他のことに気を使えないくらい余裕がなくて、ある意味、子育てに全力を注げました。このインドネシアでの暮らしを経て、家族は強くなったと思います」。その2年後に帰国した堀さんは、42歳で新たな働き直しにチャレンジする。

※続きは8月19日に公開予定です

取材・文/三浦香代子 写真/鈴木愛子