大変な思いをして働くなら「好きな仕事で」

 当時はエントリーシートも手書き。とにかく書いて、応募してを何度も繰り返し、なんとか23歳で電子部品メーカーの貿易事務として採用されたが、ここからが大変だった。不景気で社員数が減る中、一人ではさばききれない量の仕事を任された。海外とのやりとりが多く、時差もあり、毎日のように起こる輸送トラブルの対応に悩まされる日々。「残業代は月20時間までしか出ないのに、現場は9時から22時まで働くのが当たり前。残業代の代わりとして有休が加算されましたが、みんなが休んでいないのに自分だけ休めませんよね。結局、激務がたたり、体を壊して2年1カ月で退職。それまでは自分にはストレス耐性があると思っていたのでショックで……悔しくて泣きました」

 ただ、貿易事務の仕事で学んだこともある。「こんなに大変な思いをして働くなら、『好きな仕事じゃないと続かない』と思ったんです。次に働くなら、自分の好きな仕事にしよう、と誓いました」

 もともとインテリアに興味があり、学生時代は住宅メーカーでインターンシップを経験していたこともあり、26歳の時にシステムキッチンやバスルームが主力商品の住宅メーカーに転職。新築マンションやハウスメーカーを担当する法人営業部に配属された。

 「『自分が好きなこと』を優先するため、待遇にはこだわらず、契約社員で働きました。キッチンの色の組み合わせを考えたり、クライアントの要望に応えて喜んでもらえたりして、仕事は楽しかったですね。30代で部長になる人もいて、社内も活気がありました。ところが、この職場も激務で月に80~100時間の残業。土日に仕事のアポが入ることも多く、また体を壊してしまって……」。

 その最たる原因が住宅のサンプル品だ。毎日、キッチンやバスルームの重いサンプルを何十枚も持ち歩くため、外回りをするうちに、持病の腰痛が悪化してしまった。「28歳で結婚し、仕事は続けたいと思っていましたが、将来子どももほしい、家庭も大事にしたいと思うと、一生続けられる仕事とは思えなくて。職場は楽しく人間関係も良好でしたが、30歳を前にして退職しました」