ところで、ふだん板倉さんが扱う西洋古書は、同じものがこの世に数点しかない貴重な文化財ばかり。修復中、誤って破損でもしたらと怖くなることはないのだろうか?

 「およそ30年の修復士人生で、失敗したかもと青くなったのは駆け出し時代の一度だけ。手掛けた古書を博物館の展示スペースなどで見かけるたび、自分の処置は間違っていなかったと安心します(笑)。古書を修復する際は、毎回どう修復しようかと何日も悩みますが、その時間は責任感の重さとやりがいの大きさに楽しくなるほど。つくづく性格が修復士に向いているのでしょう」

丁寧に作業を行う板倉さん。古書修復への情熱は尽きない
丁寧に作業を行う板倉さん。古書修復への情熱は尽きない

修復がテーマの絵本も作りたい

 あふれんばかりのバイタリティーで、「面白そうと思うことはなんでもやってきた」と振り返る板倉さん。教室を設立した直後の多忙な時期も、大学の通信課程で図書館司書の資格を取得。「司書資格を取るために入ったのがたまたま商経学部。ならばと経理や会計の授業も履修したら、これがまた楽しく、取る気のなかった簿記の資格もゲットしました。その簿記のスキルがNPO法人の運営に役立っているのだから、人生分かりません」。

 ここ数年は、図書修復の基礎を一般向けに解説した本を執筆。クラウドファンディングで資金を調達し、2冊の自著を立て続けに出版した。

 そんな板倉さんの“次なる目標”は、本の修復が主題の絵本を出版すること。

 「本が次代へ受け継いでいくべき宝物であることを、子供たちに知らせたいんです。この春、ボローニャ国際児童図書展(イタリアのボローニャで毎年開催される児童書専門の国際書籍見本市)に行き、私の物語に絵を描いてくれるイラストレーターをハントするぞと張り切っていたのに、新型コロナのせいで流れてしまって。早くいい相棒を見つけ、絵本を出したい。印税でNPOの経営を少しでも下支えできたら、言うことないですね」

取材・文/籏智優子 写真/田中幹人