専業主婦時代に知った「学び」は終わらない

 40歳で着物と再会したときに村上さんが向き合った「心を込める」というテーマ。その後、答えが出たのだろうか。

 「『心を込める』のは、とても深いテーマです。私は着物の専門学校で学び始めた頃、何に対しても一生懸命頑張ったり、がむしゃらになったりするタイプでした。でも、花嫁衣装の着付け試験のときに、清水とき先生に『心を込めるのよ』と指導していただいたのです。着付けでは大切なのは締める、結ぶではなく、『運ぶ』。力業になってはいけません。心を込めて、布一枚を大切に運ぶのです。必死で無我夢中でやってきた自分が恥ずかしくなりました。頑張ることだけが、心を込めることではない、と」

 専業主婦だった当時、息子たちの姿を見て、学ぶことの大切さ・楽しさを知った村上さん。仕事のかたわら、通い続けた着物の専門学校では、2016年に最高位の資格「正教授」に認定された。そして56歳になった現在も「まだまだ、学びは終わりません」と目を輝かせる。

「まだまだ、学びは終わりません」と目を輝かせる
「まだまだ、学びは終わりません」と目を輝かせる

 村上さんの夫は現在、万インターナショナルの会計面を裏方でサポートしている。村上さんの着物への熱い思いをいち早く見抜き、起業するように誘導し、決心の後押しをした。本人は図らずも事業に失敗して、妻を同じ憂き目に遭わせたくない気持ちもあったはずだが、それでも強く背中を押した結果、大きく実を結んだわけだ。「いつも見守ってくれている夫には感謝しています」と、村上さんは優しくほほえんだ。

取材・文/柳本 操 写真/洞澤佐智子