村上裕子さん(56歳)は26歳で結婚。専業主婦として14年間、男の子二人の子育てに奔走しながらも、何不自由なく過ごしてきた。長男の中学入学を機に40歳で着物専門学校の門をたたき、奥深い着物の世界に引き込まれていく。そのさなか、夫が経営する会社が倒産。ビジネスのイロハも分からない村上さんが46歳で着物の事業会社「万(よろず)インターナショナル」を立ち上げる。着物の師匠との出会い、人脈ゼロからの起業……手探りで道を切り開いてきた村上さんの足跡をたどった。

(上)夫の会社が倒産、背中を押されて始めた着物事業 ←今回はココ
(下)着付師としての「手」は一生かけて進化していく

 村上裕子さんが代表取締役を務める「万インターナショナル」は、東京・南青山にあるアトリエで、年間1000人以上の女性に着物のレンタル、コーディネートや着付けをする。また、着物や帯の生地を利用したドレスやバッグの販売も手掛けている。2019年は、村上さんが代表を務めるもう一つの組織、「きものビューティージャパン協会」が主宰する着物文化発信イベント「HAPPY KIMONO PROJECT」を、フランスのパリ・オペラ座で開催した。

 青の色留袖をまとい、インタビューに答える村上さん。幼い頃から和装に親しんできたのかと思いきや、「着物との出合いは、専業主婦をしていた40歳のときだったんですよ」とほほ笑んだ。

年間1000人以上の女性に着物のレンタルや着付けをする「万インターナショナル」代表取締役の村上裕子さん。「着物との出合いは、専業主婦をしていた40歳のときでした」
年間1000人以上の女性に着物のレンタルや着付けをする「万インターナショナル」代表取締役の村上裕子さん。「着物との出合いは、専業主婦をしていた40歳のときでした」

「普通の家庭の主婦になりたい」

 村上さんは埼玉県熊谷市の商店街で電器店を営む両親のもとに生まれた。時は高度経済成長期。店は繁盛し、両親とも忙しく働く毎日で「夜、寝ているところを見た記憶がないんです。夜中にトイレで目が覚めると、いつもお店で事務仕事をしている母の姿がありました」

 小さい頃、村上さんは商店街の人たちにかわいがってもらってはいたものの、家族で過ごす時間はほとんどなく、「子ども心に、寂しい思いはありました。家族の団らんにずっと憧れていたので、早く結婚して普通の家庭の主婦になりたい、と思っていました」