バングラデシュで実感した支援の限界と難しさ

 「バングラデシュでは、小学生のときにインドネシアに行って以来、やりたいと思っていたことのど真ん中に行ったわけですが、現実の厳しさも目の当たりにしました。

 例えばストリートチルドレンは大人に対する不信感が強いため、住まいを用意しても入ることを拒絶します。そのため、来たいときに来て過ごせるドロップインセンターという開かれた場所を設けたのですが、夜になって目にした光景が衝撃でした。かなり広い場所なのに、子どもたちは隅っこに集まり、文字通り折り重なるようにして寝ているんです。一人ずつ横になるんだよと言ってもやめません。危険な路上生活で身を守る習性がしみついているからでした。

 また、セックスワーカーの女性たちはその境遇に至るまでに既に人身取引の被害者になっていて、初めからものすごい額の借金を背負わされています。やれ布団代だ何だと言いがかりをつけられ、売春宿に長く居ればいるほど借金が増えていく。そこから脱却するのは容易なことではありません。

 一人の女性にインタビューしたとき、『支援プロジェクトで字を書けるようになったことで、家族にお金を送るときにひとこと手紙を添えられるようになったのがうれしい』と言ってくれて、すごく切なくなりました。自分を売った張本人かもしれない家族のことを、彼女たちは本当に大切にしているんです。それに、お金を送るといっても銀行口座もなく、自分では直接送れないので人に託すのですが、本当に届けてもらえるかも分からないんです。

 自分たちがいいことをしている意識はありましたけれど、果たしてそれが本当に、彼らが今の状況から脱却できる足がかりになっているのか……。支援の限界や難しさも感じた日々でした」

「NGOスタッフのように最前線に立つわけでもない自分の立場にジレンマを感じることもありましたが、人にはそれぞれ役割があり、支援の形もいろいろでいいんだと今は思っています」
「NGOスタッフのように最前線に立つわけでもない自分の立場にジレンマを感じることもありましたが、人にはそれぞれ役割があり、支援の形もいろいろでいいんだと今は思っています」