ショッピングバッグから顔をのぞかせるネギでナンパ

 世の中にはありとあらゆるジャンルのマニアがいる。とある熟女好きの男性は、学生時代、大学駅前の高級スーパーの前で人妻をナンパしていたと白状した(もちろん私がARIA読者の皆さんを謹んで代表し、きっちりと懲らしめておくのでご安心いただきたい)。その際、「人妻」たる目印は買い物袋から顔をのぞかせた長ネギだったというから、そうか今後はカバンにネギを2、3本挿して歩けばいいんだわグッドアイデア~、と脳裏に浮かんだが、そういうことじゃない。

 ネギは記号にすぎないのである。昼下がりの高級スーパー前で張り込む暇な男子学生が「ネギを買っているということはきっと家庭があるに違いない、そして料理が好きで僕のことも優しく受け入れてくれるような、つつましやかな女性に違いない」と勝手な妄想を繰り広げるスイッチにすぎないのだ。

 そして彼のお好みの塩梅(あんばい)に熟した、包容力を感じさせる柔らかさと十分にはつらつとした弾力を兼ね備える女性(ARIAは上品な媒体ですから、いま私はメンタルの話をしています)がネギを提げていようものならビンゴ、「カモがネギ背負ってやってきた!」と沸き立つというわけである。

 だがその「ネギを背負ったカモ」は、ただネギを持っていたから熟女っぽく見えるだけで、同じ大学の卒業研究で疲れた一人暮らしの女子が、「あー、最近野菜不足だし、きょうは寒いから鍋にしよう」と論文執筆の合間にスッピンジャージ姿をマスクとコートで隠して駅前に向かった姿かもしれない。「うおー、寒い。こりゃ遠くの安いスーパーまでたどり着かないわ、ちょっと高くつくけど数品だけだから高級スーパーにすっか」と立ち寄って「ネギ3本で400円するとかって、おかしくね?」とあまりの値段の高さに日本の農作物流通の理不尽を噛み締めながら出てきたところかもしれない。

「あのー、お時間ありますか。僕、○○大経済学部3年の者なんですけど」
「はぁ、アタシ工学部4年ですけど何か」
「えっ、奥さんとかじゃないんですか」
「ちょっと何言ってるんですかケンカ売ってんのアンタ」

 何だかほほ笑ましい、すてきなボーイミーツガール。その人妻マニアの「僕」は知るだろう。女性の年齢というのは、ファッションやテンション次第で上にも下にもいくらでも「誤解」でき、「詐称」でき、「操作」できるのである。

ショッピングバッグのネギは「人妻」の印?
ショッピングバッグのネギは「人妻」の印?