距離を詰めてくる「元上司」

 一方、某外資系メーカーには、「社内ではコンプラ順守で守りが堅いが、社外の女には遠慮なく距離を詰める男」と女性社員の間でささやかれる役員がいるという。ある女性社員は、あきれ気味にこう語る。

 「女性部下が転職すると、職場の外で2人きりの食事に誘って、食事中は名字ではなく下の名前で呼んでくるそうなんです。例えばそれまでの職場では普通に名字で『石原さん』だったのが、社外で顔を合わせた瞬間から『さとみさん』で、そんなふうに呼ばれたことのない元部下は何事が始まるのかとびっくりしますよね。時間がたって食後のコーヒーくらいになるとすっかり『さとみちゃん』になっているとかで、一旦転職で社外に出た相手ならもう安全と言わんばかりに、距離の詰めかたに遠慮がない。女性同士って、社内はもちろん、社外にも同業や異業種のネットワークがありますから、そういうのってすぐ耳に入ってきて、みんなで『ヤツは常習犯だな』と話しています」

 昨今のコンプライアンス規定やらパワハラ、セクハラ防止やらで「社内では保身のために清く正しくお行儀よく」する、だが、一歩社外に出れば「下の名前にちゃん付けで距離を詰める」――そんな、割とオールドなテクニックを使っておイタをしようとする、夢を見たい世間のおじさんたちの姿が垣間見えてくるのである。しょうがないな。

敬称が意味する「心の距離」

 広辞苑(第7版)には「ちゃん《接尾》(サンの転)人を表す名詞に付けて、親しみを表す呼び方。」とあるが、「ちゃん」づけが「さん」づけよりはるかに心を許した印象、踏み込んだ印象を生むのは、「ちゃん」という敬称が愛玩の空気をまとっているからなのだろう。小さい子どもや、後輩、ペット。「さん」や「ちゃん」などの敬称が意味するのは敬意の度合いと国語で学ぶけれど、実生活のコミュニケーションで敬称が意味するのは「心の距離」だ。