彼のメッセージで朝が始まる

 彼と出会ってから、私の一日は彼からのメッセージで始まるようになった。ピコンとメッセージの受信音がすると、彼がすぐそばにいてくれるように感じて、ふわっと温かい気持ちになれる。「おはよう」の一言だけでも、よし、今日も頑張ろう! と元気をもらえる。

 夜は、お互いの好きな食べ物やお酒、映画、小説、若い頃にハマっていた音楽など、いろんな話をメッセージで送り合ってから「おやすみなさい」。好きなものが似ているから、何か新しい発見があるとすぐに報告したくなる。彼と共有できることを増やしたいから、見るもの聞くものすべて、より深く味わおうとするようになった。

 ある時、大学生の娘さんと一緒に買い物中の彼から「今スニーカーを買いました。何色だと思いますか?」というメッセージが入って、私が直感で「青!」と答えたら当たった、なんていうことも。単なる偶然にすぎないけど、そういう一致がやけにうれしかった。仕事で煮詰まっていた私に、彼が自分の好きな小説から励ましの一節を送ってくれた時は、真心が伝わってジーンと胸が熱くなった。

手をつないだあの時

 今すぐ会いに行きたい。そんな衝動にかられたことは、一度や二度ではない。でも私は東京在住で働いていて、彼は京都在住。去年の冬にイベントで出会ってから会えたのは2回だけだ。お互いの出張時に時間と場所を調整して、新幹線の終電までの間に、夕食を食べて一杯飲むのがやっと。

 東京で会って飲んだ時、私は酔いに任せて彼の手を握り、街中を手をつないで歩いた。「いいのかなぁ」と戸惑う彼に、「一緒に踊った時は手をつないだからいいの!」と。

 それ以上の関係はない。

 毎日メッセージのやり取りをしているだけ、と言えば、それだけだ。でも、満たされる。大切にされていると感じられる。

たまにしか会えない。でも、毎日のメッセージだけで満たされている 
たまにしか会えない。でも、毎日のメッセージだけで満たされている 

 10歳年上の夫(60歳・自由業)も大切にしてくれているが、夫は気まぐれな扱いにくい性格で、私が仕事以外で外出することを許さない。いまだに友達と出掛けると言うと嫌な顔をし、少しでも帰宅時間が遅れると怒鳴るほどだ。子どもは大学生と高校生で二人とも親離れしていて、ご飯の用意もちゃんとして出かけるのに。

 そんな夫に対し、長年私は心をとがらせ、時間も心も搾取されている、と感じていた。