誰か新しい人と出会って、結婚したいわけじゃない。でも、これまで頑張ってきた分、ふと思うのです。これからの人生を一緒に歩むパートナーが欲しいって。

 去年の夏、父が他界した。最期のお別れのとき、母が泣きながら「今までどうもありがとう」と何度も言い続けるのを見て、これが50年以上連れ添った夫婦愛かと胸を打たれた。同時に、私はもう誰かとこういう関係にはなれないのかと思ったら、家庭を築くことにちゃんと向き合ってこなかった自分を悔やんだ。

真理子さん(仮名、51歳、未婚、外資系金融)

「一人で生きていく力が必要」と言われても…

 「自分にも、心のすべてを見せることができる人が現れる。いつかは……」。そう思いながら仕事にまい進していたら、いつの間にか50歳を過ぎていた。転職、3.11の東日本大震災、新型コロナウイルス……自分のこれまでを振り返り、パートナーがいない人生について考えるタイミングは何度もあった。でも、マッチングアプリや誰かの紹介といった「人工的」な出会いには心が動かず、仕事に没頭することで心に空いた穴を埋めていく、という繰り返しだった。

 たまたま読んだ社会学者の上野千鶴子さんのエッセーで、「所詮みんな一人、一人で生きていく力が必要」といった一文が目に留まった。この先、そんなに強く生きていけるだろうか。今の私には……その自信は全くない。

 そんなふがいなさを引きずっていた昨年秋、30年ぶりに元カレが会いたいとSNS経由で連絡をしてきた。

 20歳のとき、半年間だけ付き合ったフランス人の彼(51歳)。私の母校に短期留学していたときの話で、彼の登校初日に出会って恋に落ち、彼が帰国するまでの間、濃厚で濃密な時間を過ごした。

元カレから30年ぶりの連絡。思いがけない再会の地は…
元カレから30年ぶりの連絡。思いがけない再会の地は…

 その彼とまた会える。今世ではもう会えないと思っていただけに、会えると思っただけで、気持ちが沸き立つのを感じた。10月半ばはどう? パリで会える? 彼との再会が少しずつ具体的になっていくにつれて、30年前の恋する乙女に戻っていった。ホテルは2部屋取るべき? 1部屋でいい? 期待しすぎるとロクなことがない、と必死に自分に言い聞かせたが、歯止めはきかなかった。

 ただ、これだけはどうしても聞けなかった。

 「Are you single now? 」

 彼も、あえて私にこのことを聞いてこなかった気がする。