時はバブル末期。「カーンチ!」と呼びかける声に笑い、留守番電話ですれ違う二人にヤキモキし、「バイバイ、カンチ」の“ルージュの伝言”に大号泣…。『東京ラブストーリー』はじめ、恋愛漫画の名手・柴門ふみさんの作品に夢中になったARIA世代。そう、ARIA世代は「柴門世代」と言っても過言ではないほど。あれからおよそ30年が過ぎた今、週刊誌『女性セブン』(小学館)に柴門さんが連載中の『恋する母たち』も大きな話題を呼んでいます。柴門さんが、40代の女性たちの恋を描こうと思った理由とは?
(1)東ラブから30年。柴門ふみが描く「40代からの恋」 ←今回はココ
(2)がん経験で残り時間を意識 創作力は今が最高
(3)「ご機嫌に年を重ねる5カ条」人生に無駄はない
(4)「ご機嫌に年を重ねる5カ条」最後は女友達!
「私はまだ描き切れていない」とスイッチが入った
―― 『恋する母たち』(以下、『恋母』)は、思春期の子どもを持つ40代女性3人が婚外恋愛に揺れる心模様が描かれる話題作です。ARIA読者にも熱烈なファンがいる本作が生まれた経緯について教えてください。
柴門ふみさん(以下、敬称略) まず、私にとっては初めての女性週刊誌での連載が決まったとき、読んでくださる女性読者がどんな方かを想像しました。おそらくすごく漫画好きということでもない女性たちに、芸能人のゴシップ記事と同じ感覚で楽しんでいただける漫画にするには、どんなテーマがいいのか。
そこで浮かんだのが、既婚女性の婚外恋愛だったんですね。
とはいっても、ただ専業主婦が家庭を捨てて不倫をするストーリーでは共感は得られないと考えて、ライフスタイルの違う3人の女性を軸にストーリーを展開することにしました。
夫に駆け落ちされたシングルマザーの杏、裕福な専業主婦のまり、バリバリのキャリアウーマンで「専業主夫」のパートナーを持つ優子。彼女たちを結び付けた共通点は、息子が同じ私立高校に通う同級生だったこと。異なる状況、異なるきっかけで恋が始まる3人の誰かに、読者が「ちょっと分かるな」と共感できる部分を見つけてもらえたらと、設定を考えました。
実は、当初の設定では杏とまりの2人だけだったんですが、それでは現代の女性を描き切れないと考えて、優子を追加したんです。一家の大黒柱のように稼いで、父親的な感覚で子どもと接している女性も増えていますから。
でもいざ連載を始めてみると、3人でも足りなかったかもと感じるくらい。それほど女性の生き方は多様化していますよね。
―― 思春期の子どもを持つ母親の恋愛を描いた漫画というのは、これまでになかった新しいジャンルではないかと思います。柴門さんにとっても、新鮮な作品になっているのでしょうか。
柴門 そうですね。私はこれまでずっと青年男性誌で恋愛漫画を描いてきたので、どうしても「男性読者に気持ちよく読んでもらえるには」という視点で作品づくりをしてきました。
「男性読者に喜んでもらえるもの」と「自分が本当に描きたいもの」をすり合わせていく中で、妥協してきた部分もあったなと、60歳くらいのときにふと思ったんです。
「もう体力的にも連載は無理かな」と弱気になりかけていた時期でもあったのですが、「私はまだ描き切れていない」と気づいてからはスイッチが入りました。