家族や友人、健康や若さ、夢や希望、そして自分の命――人は生きている中でさまざまなものを失います。できれば避けて通りたいことですが、生きている限り、人は多くの「喪失」を体験します。大切な「何か」を失ったとき、喪失は人にどんな影響を与えるのか。死生学を研究する関西学院大学の坂口幸弘教授とともに、喪失が及ぼす「悲嘆」について考えていきます。

(1)喪失は大切なものを持っていた証し 生きている限り失う
(2)喪失の悲しみは徐々に変化 時には人間的成長の機会にも ←今回はココ
(3)母ロスの悲しみ「死ぬまで続く」と思う女性たち 喪失学

喪失がもたらすのは悲しみだけではない

 喪失は人にどんな影響を及ぼすでしょうか。喪失に対するさまざまな身体的・心理的な反応や症状はグリーフ(grief)と呼ばれ、日本語では「悲嘆」と訳されています。

 喪失による悲嘆は悲しみだけとは限りません。状況によっては、悲しみより怒りが強く表れたり、失ったことへの罪悪感を強く経験したりすることもあります。また、心に穴があいたような空虚感や、強い孤独感に見舞われることもあります。悲嘆というと心の症状を思い浮かべると思いますが、引きこもる、泣くといった行動や、食欲がなくなる、眠れなくなるといった身体的な反応に及ぶこともあります。

 死別を主とした喪失の研究によると、喪失に対する悲嘆反応は、1.感情的反応、2.認知的反応、3.行動的反応、4.生理的・身体的反応という4つに分類されます。

 それぞれの反応や症状には個人差があります。個人の中でも、最初は怒り、そして次第に悲しみ、孤独感へと変わり、不眠、引きこもりなど、時がたつにつれ反応が変化していくこともよく見られます。

 喪失によって経験する「悲嘆」は期間に差はあっても一時的な反応であり、誰もが体験する正常な症状だと捉えられています。ただ、家族との死別や災害、重篤な疾患のような重大な喪失に直面した人の中には、強い悲しみに伴い、不眠や食欲不振、体重低下といったうつ病に近い症状を示すケースもあります。