ARIA世代には避けることのできないテーマ「親の介護」。終わりの見えない状態だと聞きますが、どれだけ大変なのでしょうか? 働きながらの介護生活はできるのでしょうか? 両親の介護を20年間続けているアナウンサーの渡辺真理さんと、日経ARIA編集部が「親を介護するということ」をテーマに往復書簡で気持ちをつづります。

拝啓 渡辺真理様

 お手紙をありがとうございます。渡辺さんが、お母様の生活や、お気持ちを大切に考えていらっしゃることがよく分かりました。

 「うちの状態がしんどくない、大変じゃない、なんて逆立ちしても言えませんが、そんな中にも思わず笑っちゃうような瞬間はあって……」という文章がありましたが、介護の日々のなかの笑いって? と興味津々です。ぜひ詳しく教えてください。

敬具

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 ポカポカと暖かな日のことを「小春日和」なんて言いますけれど、それは春や初夏といった気候が穏やかな季節の一日ではなくて、晩秋から初冬の頃の少し暖かな一日のこと。襟を立て、肩をすぼめたくなるような季節にポコッと訪れる春のような日――だからこそうれしくもあり、暖かさも身に染みて、こんなかわいらしい言葉で表すようになったのかもしれません。

 日常の中に訪れるささやかな笑いは、小春日和みたいなあたたかさ、そんなふうに感じています。

「好きな人は、いたの?」「イヤなことはあった?」

 母との暮らしのなかで、クスッと笑ってしまうような瞬間は、時折、母が発する思いもかけないひと言だったり、少女のように屈託ない笑顔を見せる瞬間だったり、あり得ない理論武装を繰り出してくる時だったり、さまざまです。

 先日、帰宅したら、ヘルパーさんがにこやかに、というよりケラケラ笑っているので、訳を尋ねたら、

ヘルパーさん 「美智子さん(母)が、テレビをご覧になって、何を思われたのか急に『好きな人は、いたの?』って、おっしゃったんです」

「え? ごめんなさいね、そんなことを……」

ヘルパーさん 「いえいえ。だから『え~、美智子さんは?』って聞いてみたんです」

「はい、そしたら?」

ヘルパーさん 「ゆっくりうなずかれて『そうね、いたほうが楽しいわね』って」

「そう言いましたか」

ヘルパーさん 「まだあるんです。その後、今度は『イヤなことはあった?』って」

「まぁ、そんなことも?」

ヘルパーさん 「だから、また『美智子さんは、ありました?』って伺ったら……」

「なんて言いました?」

ヘルパーさん 「『いっぱい』って(笑)」

 いやいやいや、4年前に逝った父が聞いたら怒る、というより、ヘコむだろうなぁ、と。世間知らずの母を守り、できるだけ母が母らしくいられるように人生を捧げたのは(とまで言ったら大げさかもしれないけれど)父のほうだと、一人娘の私としては冷静に観察していてよく分かっているのです。人の記憶、恐るべし。

「母の部屋の窓から見える春の花々」
「母の部屋の窓から見える春の花々」