「その状態に慣れていける能力」は時として味方になる

 「日常」というのは、もしかしたらちょっと退屈そうな響きに聞こえるかもしれませんが、よくも悪くも、人(というか生き物)は、その状態に慣れていくことのできる能力が、相当しっかりと備わっていて、あまり自分で意識していなくても、それは時としてとてつもない味方になってくれるものでもあります。だから、急場を何とか脱したその先にある「日常」には、それがどんな「日常」であれ、必ずクスッと笑ってしまうような愛おしい瞬間が出てくることも紛れもない真実。

 長く感じた冬が終わって、春先の地面に小さな芽が顔を出しているのを見つけるような。爆笑でも驚愕でもないけれど、なんとなく温かな感情が胸に湧いてくる感じといったら、分かっていただけるでしょうか。

 長々と、“日常”というものについて書いてしまいましたが、それは、大変じゃないとは決していえない毎日について、お話ししてからでないと、ご質問の「クスッと笑ってしまうような瞬間」を分かっていただくことは難しいかな、と思ったからなのです。実はそれは、とてもささやかで、何気ないものなので。

(「下」に続きます)

文/渡辺真理 写真/渡辺さん提供