女性ホルモンの転換期を迎えるARIA世代。何かと不調を起こしやすい更年期をうまく乗り切るには女性ホルモンの働きを知り、上手に付き合っていくことが大切です。人生100年時代といわれる今、後半の人生をより良く過ごすために、ARIA世代が知っておくべきことは? 東京医科歯科大学女性健康医学講座教授・寺内公一さんに聞いた女性ホルモンの最新知識を3回にわたってお届けします。

(1)物忘れ、集中力の低下、眠れない…これも更年期症状
(2)更年期症状を悪化させるスーパーウーマンシンドローム
(3)更年期の治療HRTはリスク? 福音? 最新情報を知る ←今回はココ

HRTの恩恵が見直されている

―― 更年期症状を改善する薬物治療には漢方薬やホルモン補充療法(HRT=Hormone Replacement Therapy)があります。ただ、HRTには「副作用が大きいのでは?」というイメージを持つ人もいます。最新の研究でHRTのリスクはどう捉えられていますか?

寺内公一さん(以下、敬称略) 更年期障害の治療のため、閉経期前後に減少した女性ホルモンを補充するのが「ホルモン補充療法(HRT)」です。HRTは、やや否定的な見方をされていた時期がありましたが、今はその効果が見直されています。

更年期障害を治療するHRT。冷えやのぼせ、発汗、動悸(どうき)などの症状には効き目が早いといわれるが…(写真はイメージ)
更年期障害を治療するHRT。冷えやのぼせ、発汗、動悸(どうき)などの症状には効き目が早いといわれるが…(写真はイメージ)

寺内 1990年代に日本でも知られるようになったHRTは一時、「万病の薬」のように思われていました。ところが2002年に米国国立衛生研究所によるWHI(Women's Health Initiative)という大規模な臨床試験でHRTのリスクが強調され、日本でも治療が敬遠されるようになりました。その後、この調査はいくつかの問題点が指摘され、再解析が行われています。問題の1つは60代以上が調査対象の7割を占めていた点です。60代70代の人にHRTを適用して研究したため、さまざまな副作用が指摘されることになったのです。

 50代に限定して解析をやり直したところ、リスクよりもベネフィット(恩恵)の方が多いことが分かってきました。50代女性にHRTを行うと慢性疾患の予防効果が得られ、死亡率を下げることも分かり、改めてHRTへの期待が高まっています。

―― HRTを考えるとき、知っておくべきリスクとしてはどんなことがありますか?

寺内 60歳未満で起こる重要なリスクの一つが静脈血栓症ですが、発症を抑える投与方法も分かってきています。