ビジネスにイノベーションを起こすための起爆剤として注目を集めている「アート思考」。第1回は、アート思考とは一体何なのかを解説し、第2回は、アート思考を磨くワークショップに参加しました。最終回となる今回のテーマは、アート思考をいかに事業構想に生かすのか。アート思考の仕組みを開発実践しているボダイの町田裕治さんに聞きました。

(1)限界突破!ビジネスに変革を起こす「アート思考」とは?
(2)アート思考を磨く第一歩「自己紹介アート」を体験する
(3)アート思考を仕事にどう生かす?鍵は「インプロ創造性」 ←今回はココ

感性と論理性のバランスが必須

―― 前回、自己紹介アートを体験しました。同じ部署や、プロジェクトを共に進めるチームのメンバーで実践することも有効だということでしたが、アート制作が有効な理由を改めて教えてください。

町田裕治さん(以下、敬称略) 企業のコンサルティングや研修で、優秀なのに、なぜか壁を突破できない方たちにしばしば出会います。習慣として会社の方針やクライアントの意向に合わせて物事を考えることがクセになっているのですね。すると本当にやりたいことや、情熱を込められるテーマを見失ってしまうのです。

 そこで、ビジネス上の制約や既成概念を外し、いったん感性のセンサーを開放して、誰もが本来持っている創造性を発揮できるようにする。いわば表現のイノベーションのために、アート制作をし、その後、事業構想づくりに入ります。

―― 自己紹介アートの他にはどんなワークショップを行い、どのように事業構想に結びつけているのですか?

町田 いきなり事業構想を行うのではなく、アート思考のワークショップが続きます。企業で行うアート思考の研修では、チームで立体造形を作ります。複数人で1つのチームとなって、紙粘土などでアート作品を作ります。粘土を丸めたり伸ばしたり、手を動かしながら考えると肩の力が抜け、発想が柔軟になるんですね。自由に創造する経験を通じて、アイデアを生み出すことを体感します。

 チームでアート作品を作ることで、メンバーそれぞれの感性の違いを感じたり、その違いから思いも寄らぬストーリーが生まれたり、意図せずに作ったものが重要な役割を果たしたりすることを学びます。これはビジネスの事業構想を考える時も同じで、複数のアイデアを統合して、1つの事業を作ることの難しさを事前に体感して事業構想をつくる準備としているわけです。

第2回で自己紹介アートのワークショップを体験した3人でチームとなり、立体造形のワークショップも体験。写真は、すべて紙粘土で作ったもの。思いも寄らなかったストーリーに帰結し、3人とも驚いていた
第2回で自己紹介アートのワークショップを体験した3人でチームとなり、立体造形のワークショップも体験。写真は、すべて紙粘土で作ったもの。思いも寄らなかったストーリーに帰結し、3人とも驚いていた

―― 感性のセンサーを開放できたら、ビジネスに役立つ発想がどんどん生まれてきますか?

町田 アート制作の後にいよいよ本格的な事業構想づくりに入ります。このとき、感性だけでは「糸の切れた凧(たこ)」のような状態になってしまいます。感性に論理性が備わることで初めて意味が出てきます。既成概念の枠から出て、創造性から発想を生み出し、構想を組み立てる論理性を組み込んで発想を磨いていきます。

 事業構想づくりでは、前半では創造性を強く意識し、後半では感性と論理性とのバランスを取りながら、アイデアを進化させていくことが肝心です。その結果、最後に創造性も論理性もある一定レベル以上のアイデアが出てきます。これを私が主宰するボダイでは「インプロ創造性」と言っています。論理性と創造性を兼ね備えた、ある種ひらめきのような創造性です。

「インプロ創造性」とは? どうやって高める? 次ページで説明します。
「インプロ創造性」とは? どうやって高める? 次ページで説明します。