ホルモンを出す器官として、古くから知られてきた箇所がある。研究の歴史も長いこれらは、「古典的」な内分泌器官と呼ばれる。だが近年、これら以外に、体脂肪や筋肉、骨といった組織も多彩なホルモンを出し、他の臓器にメッセージを送っていることが分かってきた。雑誌『日経ヘルス』から、ホルモンの基礎知識・下編をお届けします。

上編を先に読むなら ⇒ 「ホルモン」って本当は何? 働きや仕組みを改めて知る

ホルモンの概念は広がりつつある
ホルモンの概念は広がりつつある
古くから知られてきたホルモン分泌器官は、この7カ所。ホルモン放出に特化したメカニズムを備えていて、通常「内分泌器官」といえばこれらを指す

続々と見つかる新ホルモン 脂肪や筋肉、骨からも

 首都大学東京大学院の藤井宣晴教授と眞鍋康子准教授は、筋肉が出すホルモン群「マイオカイン」を研究している。「マイオカインが注目されるのは、運動の幅広い健康効果とつながっている可能性があるからです。血糖値を下げる、がんを抑制するといった働きが報告されています」と藤井教授はいう。

 従来、運動が体にいいのは、主に脂肪を燃やして肥満が解消されるためと考えられてきた。だが運動には、がんやうつを防ぐ、免疫力を高めるといった、肥満とは直接つながらないさまざまな効果もある。「よく運動する人は、筋肉が健康なので、おそらくマイオカインもよく出るのでしょう。それがこういった効果をもたらしている可能性は、十分に考えられます」(眞鍋准教授)。

 さらに、骨もホルモンを出しており、こちらは「オステオカイン」と総称される。「骨から出るホルモンが、腎臓や心臓、さらには脳に働きかけているというデータがあります」。骨の内分泌機能を研究する東京医科歯科大学大学院の中島友紀准教授(当時)はこう話す。

多彩なホルモン群は運動のための器官からも出る
多彩なホルモン群は運動のための器官からも出る
近年、脂肪細胞や筋肉、骨などの組織が、多彩なホルモン群を分泌していることがわかってきた。これらの組織も、実はれっきとした内分泌器官だったのだ

 これら新顔ホルモンについて、慶應義塾大学医学部の伊藤教授はこんな見方をする。

 「人間が先に発見したほうを『古典的』、最近見つかったものを『新顔』と呼んでいますが、生き物の進化の中では、新顔とされるホルモン群のほうが、よほど起源が古いはずです」。

 一般に動物の体は、進化とともに機能の分業化が進み、専門性の高い臓器や器官が発達したと考えられる。人間の社会が、農耕も狩猟も道具作りもみんなで行う集落的な共同生活から、農業、工業、サービス業などに分業化された近代的な社会へと変化したように、生き物の体も、専門的な器官は後から現れたと考えるほうが合理的だ。

 だとすると、ホルモン分泌に特化した古典的器官は、むしろ新参者。骨や筋肉といった、内分泌の専業ではない組織がホルモンを発するスタイルのほうが、原始の姿を色濃く残しているのかもしれない