代謝の調節から人間関係まで、さまざまな機能を持つ体内物質「ホルモン」。体の中でどんなふうに働いているのだろう。ホルモンの働きぶりが分かればもっと愛着がわくはず。体内のメッセンジャー、ホルモンの素顔を雑誌『日経ヘルス』がご紹介します。

ホルモンはメッセンジャー 情報を携えて駆け巡る

 「ホルモン」という名前は多くの人にとっておなじみだろう。月経周期を作る「女性ホルモン」、筋肉や骨の成長に関わる「成長ホルモン」、血糖値を下げる「インスリン」など、ヒトの体内には100種類以上のホルモンがある

 ただ、あまりに数が多いため、改めて「ホルモンって何?」と考えると、その全貌は意外と分かりにくいかもしれない。そこでここでは、さまざまな角度からホルモンの働きぶりを紹介しながら、ホルモンの実像に迫ってみたい。

 まずは基本プロフィールから。医学的な定義でいうと、ホルモンとは、「体内を循環する情報伝達物質」を指す。なんらかの知らせを携えて体内を旅する、メッセンジャー分子だ。例えばインスリンは、血糖値が高くなると分泌量が増える。「血糖値が高いぞ~」という「お触れ」を伝えているわけだ。

 誰に知らせるのか? 「ホルモンがメッセージを伝える相手は、ホルモンごとに厳密に決まっています」。慶應義塾大学医学部の伊藤裕教授はこう話す。情報の受け手は、そのホルモンをキャッチする「受容体」を備えた細胞群だ。インスリンは血流に乗って体内をくまなく循環するが、メッセージを受け取れるのは、インスリン受容体を持つ肝臓や筋肉の細胞だけ。受容体がない細胞の前は、素通りだ。

 つまりホルモンの情報は、館内放送のように不特定多数に向けてアナウンスされるわけではない。相手を特定して一斉に送信する「CCメール」のようなシステムといえるだろう。

ホルモンは「CCメール」決められた相手にだけ情報を伝える
ホルモンは「CCメール」決められた相手にだけ情報を伝える
ホルモンの情報を受け取る細胞は、そのホルモン専用の腕(受容体)を備えている。受容体がある細胞だけが、情報を受け取ることができる