「よっこいしょ」と声を出せばインナーマッスルが働く

 要するに、インナーマッスルが重要だというわけだが、もう1つ肝心な点がある。

 「インナーマッスルである腹横筋は、いろんな体の動きをするときに、平均0.04秒先立って力が入ることが分かっています」。腹横筋は先に準備して、背骨を「守っている」のだ。

 ところが、腰痛がある人では、この働くタイミングが遅いことが研究で判明している。つまり腰痛の人は、体を動かす直前の「守り」の準備ができず、背骨に負荷がかかりやすい体勢のまま動いてしまうというわけだ

 「体幹の機能としては、筋量よりも、働くタイミングが重要だと理解してほしい」と金岡教授はいう。運動が得意でない人にとっては、働くタイミングを早めるということは難しいことのように思える。だが、金岡教授は、実に簡単、「ドローイン」をすればいいとアドバイスする。息を吐きながら、お腹をへこませ、おへそを奥へと引き込むこの動きで、インナーマッスルの腹横筋がしっかり働く。それで、背骨を「守る」準備がしやすくなるため、腰痛の患者にも薦めているという。

 「ほとんどの人が普段腹横筋をしっかり使っていません。しかし、ドローインで使うクセをつければ、働くタイミングが早まって、背骨に負荷がかかりにくい動きに近づける。ヨガでもピラティスでも、丹田呼吸法でも、同様の呼吸をしますね。だから、同じ効果が期待できます」。

 そして、もう1つ、普段の動かし方にも注意点が。「体を動かすとき、声を出しても、腹横筋が先に働きます。テニスの選手がボレーを打つときに声を出しますね。あれもそのためでしょう。だから、『よっこいしょ』と言いながら体を動かすのはいいんですね。実は、声を出しながら、体を動かすというのは、体を守る先人の知恵なのかもしれません」(金岡教授)。

腰痛がある人は、腹横筋の働くタイミングが遅い
 3つの腕の動きをしてもらい、ワイヤ筋電図で、腹横筋などの腹筋、肩の三角筋の活動を測定。グラフは腹横筋のみ抜粋。肩の三角筋の活動開始を0としたとき、腰痛がない人では、それより早く収縮しているが、腰痛がある人では遅い。ドローインの提唱者、オーストラリアのPaul W Hodgesの研究。(データ:Spine;21,2640-2650,1996)

 次回は、尿もれを防ぐ体幹の整え方を紹介します。
 こちらからどうぞ ⇒ 尿もれを防ぐ体幹の整え方 いきむクセがある人は要注意

金岡恒治
早稲田大学スポーツ科学学術院 教授
金岡恒治 整形外科医。日体協公認スポーツドクター。日本水泳連盟医事委員会委員長。筑波大学医学専門学群卒、筑波大学臨床医学系講師を経て、2007年同大へ。12年より現職。日本で、深層筋の筋電図を測定できる数少ない研究者の一人。

取材・文/白澤淳子(日経ヘルス編集部) 図版/三弓素青 イメージ写真/PIXTA