「足の健康には、アーチが大切」。よく知られている話だが、アーチ骨格の成り立ちをさかのぼると、さらに奥深い意味が見えてくる。人類進化の視点から、二足歩行とアーチの働きをひもといてみよう。

 二本の足で立ち、歩く。私たちが当たり前のように行っている二足歩行だが、動物界ではかなり珍しい歩き方だ。そもそもヒトはどうやってこんなやり方を身につけたのか。二足歩行の起源を知るために、人類の進化をさかのぼってみよう。

 東京大学総合研究博物館 特招研究員の諏訪元さんは、初期人類の研究者。国際的な研究チームに参加し、アフリカの発掘調査で、440万年ほど前の「ラミダス猿人」を発見した立役者だ。

 骨盤の形などから、ラミダス猿人は現代人に近い直立姿勢と判明した。だが、足の指はチンパンジーのように親指が離れており、アーチ骨格がない。直立二足歩行を始めた当初の祖先の足は、「偏平足」だったのだ。

 「足で枝をつかめるので、木登りは得意だったはず。でもアーチのない足ですから、長い距離を歩くのは苦手だったでしょう」と諏訪さんは推測する。彼らは、樹木がまばらに生えるようなエリアで、木の上と地面を行き来しながら生活していたと考えられている。

 ときが進み、360万年ほど前になると、現代人並みのアーチ骨格を持つ「アファール猿人」が現れた。「アーチのある足になったことで、長距離を移動したり、獲物を追って走ることが可能になったと考えられます」(諏訪さん)。

 アーチを内蔵する「健脚」を得た彼らは、樹上生活を捨て、平地が広がるサバンナに進出した。アーチを手に入れたことで、ヒトの歩行力は飛躍的に高まったのだ。

アーチには「クッション」&「アクセル」の効果がある

■「木の上」から「平地」 に下りたときに 足のアーチができた
■「木の上」から「平地」 に下りたときに 足のアーチができた
440万年ほど前のラミダス猿人の足は、今のチンパンジーと同様に、親指が離れて物をつかめる構造になっている(左図)。その後、サバンナに進出したころには、現代人と同じようなアーチを持つ足へと進化した(右図)。
■足のアーチ骨格は「3つのアーチ」からなる
■足のアーチ骨格は「3つのアーチ」からなる
足のアーチは、親指の付け根(母趾球(ぼしきゅう))、小指の付け根(小趾球(しょうしきゅう))、かかとの3点をつないだ部分が互いにバランスを取りあいながら支え合うような構造をしている。