文明が発展したのは二足歩行のおかげ
ところで、二本足で歩くようになった人間の祖先は、必然的な結果として、「空いた両手」を手に入れた。手が自由になれば、物を持ち運べるし、棒などの道具も使える。食料や道具を一カ所に集めれば、そこが拠点になり、人のコミュニティーが生まれただろう。そして、社会生活の中で生じるさまざまなやりとりや駆け引きにおいて、「より価値あるものを持っている」ことに、さらなる大きな意味が生じたと考えられる。
「物を持ち運べるようになったことは、人類社会のあり方にまで影響を与える、きわめて大きな要因だったと考えられます。二足歩行にならなければ、人類の文化は発展しなかったでしょう」。諏訪さんはこう話す。
なるほど。直立二足歩行は、単なる目新しい移動方法ではない。人類史に大きなインパクトを与える進化だったのである。それを支えているのが、足のアーチなのだ。そんないにしえに思いを馳せながら、弾力あるアーチを目指して、足の手入れに励むことにしよう。
ゾウ以外の四足動物、例えばウマやイヌの足にはアーチがない。四本足で疾走するには、アーチ骨格は必要なかったようだ。ゾウほどの巨体になって初めて、体を支えるクッションとしてアーチが進化した。その意味で、ゾウよりはるかに小型の人類にアーチがあるのは、二足歩行の特殊性を示しているのだろう。
東京大学 総合研究博物館 特招研究員
順天堂大学 保健医療学部 特任教授
取材・文/北村昌陽 イラスト/三弓素青 イメージ写真/PIXTA