文明が発展したのは二足歩行のおかげ

 ところで、二本足で歩くようになった人間の祖先は、必然的な結果として、「空いた両手」を手に入れた。手が自由になれば、物を持ち運べるし、棒などの道具も使える。食料や道具を一カ所に集めれば、そこが拠点になり、人のコミュニティーが生まれただろう。そして、社会生活の中で生じるさまざまなやりとりや駆け引きにおいて、「より価値あるものを持っている」ことに、さらなる大きな意味が生じたと考えられる。

 「物を持ち運べるようになったことは、人類社会のあり方にまで影響を与える、きわめて大きな要因だったと考えられます。二足歩行にならなければ、人類の文化は発展しなかったでしょう」。諏訪さんはこう話す。

 なるほど。直立二足歩行は、単なる目新しい移動方法ではない。人類史に大きなインパクトを与える進化だったのである。それを支えているのが、足のアーチなのだ。そんないにしえに思いを馳せながら、弾力あるアーチを目指して、足の手入れに励むことにしよう。

■ゾウは巨体を支えるためにクッション性の高いアーチを持った
 足のアーチは人間特有なのか? 答えはNO。実はゾウの足にも、アーチ状の骨格がある。ただし足の裏を見ても、人間のような土踏まずは見当たらない。ゾウのアーチの内側は柔らかい脂肪組織で埋まっているため、外から見てもわからないのだ。
 ゾウ以外の四足動物、例えばウマやイヌの足にはアーチがない。四本足で疾走するには、アーチ骨格は必要なかったようだ。ゾウほどの巨体になって初めて、体を支えるクッションとしてアーチが進化した。その意味で、ゾウよりはるかに小型の人類にアーチがあるのは、二足歩行の特殊性を示しているのだろう。
諏訪 元(すわ・げん)
東京大学 総合研究博物館 特招研究員
諏訪 元(すわ・げん) 1954年東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科人類学専攻博士課程修了。京都大学霊長類研究所助手、東京大学理学系研究科助教授を経て、現職。アフリカでの初期人類研究のほか、縄文人など日本の人骨研究も手がける。
坂井建雄(さかい・たつお)
順天堂大学 保健医療学部 特任教授
坂井建雄(さかい・たつお) 1953年大阪府生まれ。東京大学医学部医学科卒。東京大学医学部助教授、順天堂大学医学部教授などを経て、現職。著書に『解剖学はじめの一歩』(日本医事新報社)、『図説 医学の歴史』(医学書院)、『腎臓のはなし』(中公新書)など。

取材・文/北村昌陽 イラスト/三弓素青 イメージ写真/PIXTA

日経ヘルス2016年7月号掲載記事を再構成

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