1週間たっても取れない疲れは内科を受診、6カ月治らなければ専門医へ

 なかなか取れない疲れは、病気の可能性がある。例えば、糖尿病や甲状腺などのホルモン異常、副腎疲労やうつ病でもそんな症状が出る。まずは内科を受診しよう。

 「疲れ」で最近注目されている病気が、慢性疲労症候群(以下CFS、※現在は、ME/CFS(筋痛性脊髄炎/慢性疲労症候群)と併記して呼ばれることが多い)。これまで健康だった人が、ある日突然激しい全身の倦怠感に襲われて体が動かせなくなり、症状が6カ月以上続くのが特徴だ。

 大阪市立大学医学部 代謝内分泌病態内科学 客員教授の倉恒弘彦さんは「CFSは長い間、ただの怠け病、心の病ではないかと思われてきた。しかし最新の研究では、感染症や身体的・精神的ストレスなどの要因がなくなった後も、脳神経系の炎症が続くことが原因の可能性であると分かってきた」と語る。

■脳の反応部位で症状が異なる
■脳の反応部位で症状が異なる

 PET(陽電子放出断層撮影)を用いて「活性型ミクログリア」の有無を検査することにより、脳内の神経炎症の存在を直接調べられるようになった。視床・中脳・扁桃体での炎症が強いと「認知機能障害」が強く、帯状回や視床の炎症の強弱は「痛み」との相関が見られ、海馬での炎症が強いほど「抑うつ症状」が強い。

 これまでの診断基準では、診断をつけるのに時間がかかった。米国医学研究所が2015年に新しい疾患概念「全身性労作不耐症(SEID)」を提唱した。(1)発症前に比べ活動レベルが50%以上低下するほどの重度の疲労が6カ月以上続く(休息をとっても回復しない)、(2)健康なときならば全く問題がなかった軽度の労作で極度に倦怠感が増す、(3)睡眠障害がある(睡眠後の回復感がない、熟睡感がない)。以上の3つを満たし、かつA 認知機能の低下(記憶力・思考力等の低下)、B 起立不耐症(起立性調節障害)のどちらかを認めるものとした。

 日本では、この基準を元に重症度基準や鑑別診断などを追加した臨床診断基準が発表されており、これが該当すれば、CFSとして治療が開始される。「男女比は1対2.4で女性のほうが多く、発症年齢は20~30代が全体の65%を占める。30歳前後で発症し、病名が確定するまで4年ほどかかっている人が多い」と倉恒教授。

 CFSの疑いがある場合はどうしたらいいのだろうか。「1週間以上休んでも疲れが取れなければ内科を受診し、疾患が見つかればその疾患の治療を受ける。1カ月たっても治らなければ心療内科との相談を薦める。日常生活に支障を来たす疲労が半年以上続くようなら専門医を受診してほしい」と倉恒教授。

 「約4分の1の患者は治療効果がみられず日中も横になった生活をされており、社会的支援が必要。しかし、約2割は社会に復帰しているので、諦めずに治療に専念してほしい。症状には波があるので一喜一憂せず医師との信頼関係を大切に」(倉恒教授)。

梶本修身
東京疲労・睡眠クリニック院長
梶本修身 産官学連携「疲労定量化および抗疲労食薬開発プロジェクト」統括責任者。著書に『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書)ほか。
倉恒弘彦
大阪市立大学 医学部 代謝内分泌病態内科学 客員教授、株式会社FMCC 代表取締役
倉恒弘彦 東京大学大学院特任教授。「慢性疲労症候群の病因病態解明と画期的診断・治療法の開発」(厚労省研究班)の代表研究者を務めるなど、同疾患の世界的研究者。

取材・文/渡邉由希 写真/PIXTA 構成/羽田 光(日経DUAL編集部)