ミトコンドリアの「さび」が疲労の正体

 疲れるのは脳のなかでも「自律神経の中枢」と呼ばれる視床下部と前帯状回という部分だという。「自律神経は、呼吸や消化、血液循環、心拍数といった生体機能を調整しており、睡眠中や安静中でも、生きている限り24時間働き続けている。運動を始めると、自律神経の働きで数秒後には心拍数が上がり、呼吸が速くなり、汗をかく。これを運動している間、休むことなく制御している。だから運動をすると、生体のコントロールタワーである自律神経が最も疲れる」と梶本院長は説明する。

■休みなく働いている自律神経の細胞が、最も影響を受けやすい
■休みなく働いている自律神経の細胞が、最も影響を受けやすい

【脳】自律神経の中枢。24時間作用する
【気管】気管を広げたり狭くするのも自律神経の働き
【心拍】心拍数を増やしたり抑えたりする
【目】瞳孔を拡大させたり縮小させる
【血管】縮小させたり拡張させたりする
【胃腸】働きを抑えたり活発にする
【膀胱】尿をためたり排出するのも自律神経の働き

 細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアは、酸素の消費量が高いので活性酸素が生じやすく傷つきやすい。最もその影響を受けるのは、生体機能を維持するために休みなく働いている自律神経の細胞だ。

 自律神経は生体機能を維持するために常に働いている。そのため酸素の消費量が非常に高く、大量の活性酸素が生じる。「脳内で発生した活性酸素は、神経細胞を攻撃する。具体的には細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアを傷つけ(酸化させ)、さびつかせてしまう」(梶本院長)

 「このミトコンドリアの『さび』が疲労の正体。さびにより自律神経の機能が低下した状態が『疲労』、さびがこびりついて取れなくなった状態(元に戻らなくなった状態)を『老化』と呼ぶ」と梶本院長。生じた活性酸素は、こびりついてしまう前に取り除くことが大切なようだ。

【チェック】1つでも当てはまれば「脳の疲れ」がたまっているかも
□ 物事はキリのいいところまでやらないと気が済まない
□ ストレス解消のために体を動かすのが習慣
□ 責任感があり、遅くまで残業しても苦にならない
□ 日中に眠気があり、大きないびきをかくと言われる
□ 集中力が高く、没頭すると周りが見えなくなる
□ 疲れたら栄養ドリンクをよくのむ
□ 屋外で過ごす時間が長い
□ 長時間のドライブで、途中休憩をあまりとらない
□ 熱めのお風呂に長湯をするのが好き
□ 休日は遠くのテーマパークやアウトレットに足を延ばす 

 週末に出かけたり、熱いお風呂に入ったり、仕事帰りに体を動かしたり……。こうした行動は、仕事などで脳(自律神経)が疲れているところに、さらに自律神経を疲れさせることになり、疲労が蓄積する要因になる。

 次回は、「脳疲れ」を回復させる対策を紹介します。
 こちらへどうぞ ⇒ 「脳疲れ」をしっかり回復させるには セルフケアと受診

梶本修身
東京疲労・睡眠クリニック院長
梶本修身 産官学連携「疲労定量化および抗疲労食薬開発プロジェクト」統括責任者。著書に『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書)ほか。

取材・文/渡邉由希 イラスト/三弓素青 写真/PIXTA 構成/羽田 光(日経DUAL編集部)