長期ストレスで脳が傷つく

 うつ病になると、脳内の特定の部位にも変化が生じるという。「MRI(磁気共鳴画像法)で脳を調べると、情動を抑える帯状回(たいじょうかい)や記憶などに関わる海馬が、健康な人に比べて小さくなっている」と功刀教授。

うつ病では、ストレスで脳が傷害される
うつ病では、ストレスで脳が傷害される
慢性的なストレスが続いてコルチゾールが過剰になると、脳の細胞に必要な神経栄養因子が低下し、海馬などにもダメージが。下の写真はMRIで調べた脳画像。うつ病患者(右)では海馬が萎縮し、黒いすき間ができている。左の健常者と比べると違いがよく分かる。(写真提供/功刀教授)

 なぜこんなことが起こるのか。功刀教授は「じわじわ続く慢性的なストレスがよくない」という。ストレスにさらされると、体内ではそれに対抗しようとコルチゾールというホルモンが増える。「この状態が長期間続くと、過剰なコルチゾールが脳を傷害し、海馬などの萎縮を招く」(功刀教授)。ストレス下でうつうつと悩んでいるとき、脳はかくも傷めつけられている。

 「悩む期間が長いほど脳は傷つき、治療にも時間がかかる。うつ病の入り口の『不安でたまらない』という段階で、生活を見直すように心がけて」と川村院長はアドバイスする。

 次回は、うつを食い止める生活習慣について紹介します。

功刀(くぬぎ)浩
帝京大学医学部精神神経科学講座 教授
功刀(くぬぎ)浩 栄養学的検査や脳画像検査を用いてうつ病などの治療・研究に取り組む。日本精神神経学会専門医。「真面目でがんばりすぎる人がうつになりやすい。“がんばる”と“休む”のメリハリをつけ、食事などの生活を見直すことが重要です」。
川村則行
川村総合診療院(東京都港区) 院長
川村則行 国立精神・神経医療研究センター勤務時代から、うつ病の指標となる物質を探索。11年から血液検査でうつ病を診断。「筋肉を使いすぎると“肉離れ”を起こすように、脳の神経を使いすぎるとうつ病になる。悩み過ぎはよくありません」。

取材・文/佐田節子 構成/黒住紗織 写真/PIXTA