眠れないことを恐れて不眠症状が長引く

 一方、「慢性不眠」は、始まりが何であれ、眠れないこと自体に悩むようになり、そのせいでかえって症状が長引いている状態。枕が変わると眠れなかったり、心配事が片づくまでほかのことが楽しめなかったりする神経質な人がなりやすい。

 「不安の強い心配性の人が不眠を抱えると、それを『テーマ化』してこだわりやすい。そして、今日も眠れないのではないかと緊張しながら寝る習慣がついてしまう」と三島教授。

不眠症が生じるメカニズム
不眠症が生じるメカニズム
ストレスや体調不良による急性不眠は誰もが経験するが、原因が取り除かれれば短期間で治る。不眠症状に過度にこだわると不眠自体が悩みのタネとなり、眠りに対する不安や不満が高まって、自律神経やホルモン分泌に変化が生じ、慢性化する

 その結果、本来はリラックスモードの副交感神経に切り替わるはずの自律神経が、緊張モードの交感神経優位のまま保たれたり、強力な覚醒作用を持つストレスホルモンの分泌が高いままになったり、脳の温度を下げて眠りやすくするメラトニンの効きが悪くなるなどして、良い睡眠がとれなくなるという。

眠ろうとしても眠れない「睡眠禁止ゾーン」がある
眠ろうとしても眠れない「睡眠禁止ゾーン」がある
入眠の1〜2時間前にメラトニン分泌が高まるとともに覚醒度が急速に低下して睡眠が引き起こされる。この直前の時間帯は覚醒度が最も高く、眠ろうとしても眠れない「睡眠禁止ゾーン」。寝つきが悪い人はこのタイミングで眠ろうとしている可能性が。(データ:J Clin Psychiatry;66[suppl9],3-9,2005を改変)

脳を「覚醒させる物質」のほうが「眠り物質」より働きが強い
脳を「覚醒させる物質」のほうが「眠り物質」より働きが強い
脳では覚醒に働く物質と、睡眠の始まりと維持に働く物質が互いに抑制しあい、両者の切り替えを体内時計が行う。覚醒物質はヒスタミンをはじめ多く存在するが、睡眠物質はごく限られる。そのため覚醒側へシフトしやすい。この仕組みは人の生き残り戦略だと考えられている