「もしや認知症?」と自分のもの忘れを気にして受診する40~50代の人の多くは、実は認知症以外。今回は、原因別にもの忘れ対策をご紹介します。

 前回の記事であなたのもの忘れの原因を再チェック!
 ⇒ 人の名前が出てこない…度忘れ大丈夫? もしや認知症?

 もの忘れの原因のうち「うつタイプ」「体の病気タイプ」「ストレスタイプ」……これら3タイプの対策や治療を見ていこう。

集中力や判断力が落ちる「うつタイプ」

 ぐっすり眠れない、マイナス思考、やる気が出ないなどの症状があって、もの忘れもある場合は、うつの可能性が大。

 「うつは心身が消耗してエネルギー不足に陥った状態。まずはしっかり寝て、食べて、充電すること。そして、悩みや愚痴を話すことも大事。うつ状態が改善すれば、もの忘れも自然とよくなる」と牧野クリニック心療内科の牧野真理子医師。

 症状がつらいなら我慢せず、心療内科や精神科で相談を。「なるべく軽い段階で治療を始めたほうが、治りも早い」(牧野医師)。また、「うつ病は将来の認知症のリスクになることもある。しっかり治しておくことが大事」と東京医科歯科大学特任教授の朝田隆教授。

軽度認知障害の段階で治療。“先制治療”で認知症への進行をくい止めよう!
アルツハイマー型認知症では、脳の中にアミロイドβなどの異常なたんぱく質が多く出現する。この現象は発症の25年ほど前から始まっているという。「発症してからでは遅いと、治療を前倒しする動きが加速している。前段階の軽度認知障害と分かったら早速、治療を始め、認知症への進行をできるだけ防ぐことが重要」と朝田教授。さらに何の自覚症状もないが、画像検査などでは兆候が分かる「プレクリニカル」の段階から治療を始める「先制治療」の動きも。治療の目的は「なる前にくい止める!」。次ページ以降で紹介する対策も有用だ。

甲状腺・てんかんなどが原因の「体の病気タイプ」

 甲状腺機能低下症は女性に多く、特に40歳以降での発症が目立つ。全身の代謝が低下するため、体の症状だけでなく、もの忘れや気力の低下、しゃべり方がゆっくりになるなどの症状も。「甲状腺ホルモンを薬で補うと劇的によくなる」と牧野医師。血液検査で分かるので、心当たりのある人は、まず検査を。

 てんかんも、もの忘れの原因の一つ。「子どもの病気という印象が強いが、もの忘れを伴うタイプは40〜50代以降での発症が多い」と朝田教授。けいれんは伴わないが、突然、意識が朦朧として無反応になる、発作の前に変なにおいがしたり、何かが見えたりする、普段の記憶力も以前に比べると多少落ちた、といった症状があったら、一度検査を。「問診と脳波検査などで診断がつく。抗てんかん薬がよく効く」と朝田教授。

 栄養不足が原因のもの忘れは、極端なダイエットをしている女性に多い。「食事が偏っている人、なかには摂食障害に陥っている人も。栄養不足になると体だけでなく、脳に必要な栄養素も足りなくなる」と牧野医師。その代表がビタミンB12やB1、葉酸だ。これらはレバーや肉、豆、緑黄色野菜などに多く含まれる。「総合ビタミン剤の投与でよくなるが、基本は何といっても毎日の食事」と牧野医師は強調する。

 更年期は女性ホルモンのエストロゲンが急激に減るため、心身に多様な不調が出やすい。もの忘れもその一つ。「女性ホルモン補充療法(HRT)が効くこともある。ほてりなど更年期のつらい症状がほかにもあるなら、婦人科で診てもらって」と牧野医師。更年期はうつにもなりやすい時期。「単なる更年期症状と思っていたら、うつ病だったという人も。もしやと思う人は心療内科などで相談を」(牧野医師)。

日常生活が原因の「ストレスタイプ」

 日常生活でのストレスや疲労が原因のもの忘れは、その生活を見直すことが一番の対策。

 「ストレスを発散する、一人で悩みを抱えない、よく眠る、しっかり休む、ちゃんと食べる。それだけで頭の働きがよくなって、もの忘れが減ったという人も少なくない」と牧野医師。

 また、「こうあるべき」とか、物事を悪い方向に考えたりするなど、ストレスがたまりやすい考え方を改めることも重要だという。