もの忘れの背後に隠れている病気の可能性

 一方、背後に何らかの病気が隠れていることも。多いのはうつ病だ。「うつになると脳の血流も悪くなり、脳全体の機能が落ちる。集中力や注意力、判断力も低下するので、当然、もの忘れも多くなる」と牧野医師。

 「女性の場合、甲状腺機能低下症によるもの忘れも多い」(牧野医師)。甲状腺ホルモンの分泌が低下して、体全体の代謝が落ちるため、体重増加、冷え、眠気などに加え、頭がよく働かない、意欲低下などの症状が出る。

 意外な原因には、てんかんもある。「発作が起こると、数分〜数十分間、意識が朦朧(もうろう)となり、その間の記憶がなくなる。けいれんは伴わず、周りからは単にボーッとしているように見える」と朝田教授。

 また栄養不足が原因のことも。「ダイエットや摂食障害で、脳に欠かせないビタミンB12やB1、葉酸などが不足し、ボーッとしたり、記憶力が落ちたりする」(牧野医師)。ほかに更年期症状の一つとして起こったり、精神安定剤や入眠剤などの薬の不適切な使い方が原因のことも。

 次ページで認知症リスクと、認知症でない場合の物忘れの原因チェックをしよう。

みんなが心配な認知症ってどんな病気?

 その前に、そもそも認知症とは何かをおさらいしよう。

 記憶力や判断力などの認知機能の低下が徐々に進行していくのが、認知症だ。原因となる病気はたくさんあり、最も多いのがアルツハイマー病だ。認知症人口は増加の一途で、現在、予備軍も含めると65歳以上の4人に1人が該当するという報告も。

 最近、注目されているのは、認知症の予備軍に当たる「軽度認知障害(MCI)」。「新しいことが覚えられないなど、記憶力だけが低下した状態。判断力や数学的能力など通常の知能には問題ないが、4〜5年で約半数が認知症に進む」と朝田教授。MCIは認知症に進むかどうかの分かれ道。この段階で早く見つけて手を打つことが重要だ(近日公開の下編記事を参照)。

●前段階の「軽度認知障害(MCI)」を早く見つけて!
【MCIチェック】
□ 新しいことが覚えられない
□ 同じことを言ったり、聞いたりする
□ 長年の趣味を楽しめなくなった
□ 料理のレパートリーが減ってきた
□ 細かいお金の計算が苦手になり、お札で支払うことが増えた
□ 前回までの話を覚えていないので、連続ドラマを見なくなった
これらはあくまで目安。生活に支障が出るほどではないが、記憶力の低下から生活にいくらか変化が生じている状態。

●長い年月をかけ、段階的に認知症へと進んでいく
正常

プレクリニカル(約20年)
全く症状はないが、脳の中では認知症の原因物質(アミロイドβ)がたまりだしている。

軽度認知障害(MCI、約5年)
認知症の前段階。記憶力の低下が目立つが、日常生活に支障が出るほどではない。

認知症(15~20年)
認知機能低下のほかに、妄想や徘徊などの症状を伴うことも。長い年月をかけて進行する。