悩んだり、イライラしたり、日々浮き沈みする心を穏やかにしたい……。そんな悩みに、心理カウンセラー僧侶の羽鳥裕明さんが寄り添い、仏教と心理学の視点からヒントをくれるこの連載。今回で最終回を迎えます。迷ったとき、自分らしさを見失いそうになったときに私たちは何を指針にして生きていけばいいのでしょうか。

悩んだり、苦しんだりしても、自分が最終的に納得して選んだ道を進みたい。
悩んだり、苦しんだりしても、自分が最終的に納得して選んだ道を進みたい。

 長らくお付き合いいただいたこの連載も、今回で最終回となります。今回は、読者のみなさんに「自分を信じて生きる」ということについてお話をしたいと思います。

 そこで、まずお伝えしたいのが「自灯明・法灯明(じとうみょう・ほうとうみょう)」という、仏教の有名な言葉です。

 これは、お釈迦(しゃか)さまが入滅(にゅうめつ)されるとき、つまり、亡くなる直前の最後に説かれた教えで、弟子の1人が「お釈迦さまが亡くなった後、私たちは何をよりどころにして生きていったらよいですか」と尋ねたところ、お釈迦さまが「自らをよりどころとしなさい。そして、これまで私が教えたこと(法)をよりどころとしなさい」と諭した言葉とされます。

 “灯明”とは、船舶にとっての灯台のようなものであり、場合によっては「これまでに教えたこと(法)に基づいて自分で考えなさい」という意味で解釈されることがありますが、私は、「自灯明」という言葉が最初にあることから、「自らが信じて正しいと思うことをやりなさい。そして、もしも自分の判断に迷ったら、これまでに教えたこと(法)に基づいて判断しなさい」という意味合いで解釈しています

 つまり、お釈迦さまは「自分を信じて主体的に生きなさい」とおっしゃっているのです。

【ミニ知識】人の悩みに関わる仏教用語の深い意味
自灯明・法灯明(じとうみょう・ほうとうみょう)
お釈迦(しゃか)さまが亡くなられる際に、弟子たちに残した言葉。灯明とは自分の行き先を照らし出す灯台のような意味。「自らが信じて正しいと思うことをやり、それでも判断に迷ったときはこれまでに教えたこと(法)に基づき判断を」というメッセージが込められています。自分で納得した道を歩くことの大切さをお釈迦さまは伝えてくれているのですね。