形をまねることで意識の奥底に働きかける

 三密の教えは、現実社会でも応用できます。目標とするものがあるのならば、まずはそれをまねてみる。「学ぶは、まねるから」といわれますが、まさに、「なりたい」と思う対象を、行動と言葉と意識でもって真似ることにより、目標とするものに近づくことができるのです。

 幼い子どもは、ヒーローの決め技やプロ野球選手の姿勢、女の子ならお姫様のようにダンスする、というふうに、憧れを持つと自然とその対象をまねるものです。心理学ではこのような行動を「モデリング」といいます。

 また、ラグビー選手の五郎丸さんがキック前に人さし指を立てて両手を合わせるポーズを取ることが話題になりましたが、人が何かを目指すときには、形を整えたり、気持ちがポジティブになる言葉を口にしたりすることで、意識の奥底に働きかけることができ、インプットされやすいのかもしれません。もし身の回りに、目標となるような人物がいるなら、会話の仕方、電話の応対など、細かに観察して、実際にまねてみましょう。

 実際に何かを始めようとしたとき、「自分なんかには似合わない」「笑われるのでは」などというように「躊躇(ちゅうちょ)してしまう心」が生じてしまうこともあります。私も若いころは「自分のプライドを守るためにそもそも行動しない」という選択をしそうな自分がいました。そんな自分を情けないと思いながらも、勇気がなかったのです。そんなとき、考えたのが「俳優になったつもりになる」こと。自分という監督がいて、一歩進めずにいる自分に向かって、「俳優の仕事なのだから、やってこい!」と活を入れているイメージをしてみたのです。

 笑われたとしても、ばかにされたとしても、「いやいや、これは本来の私じゃない。仕事としてやっているのだ」という気持ちになれて、「我」を横に置くことができました。すると、後ろ向きな気持ちは不思議と消えて、体が動くのです。当時は、自らの心を守るための少し情けない方法だと感じていましたが、見方を変えると「自意識過剰」になっている自分の「我」を捨てる方法でもあったと思います。やらない理由はいくらでも考えられる、でも、そうやって言い訳を繰り返していたら自分は変われないままだったでしょう。

 近年の私自身の話をすると、40代になってから、スキューバダイビングに挑戦して、1年でインストラクター資格を取得しました。実は、もともと泳ぎは大の苦手でした。その理由は、中学生のときにクラス対抗の水泳大会に勝手にエントリーされ、全校生徒の前で半ばおぼれながら泳ぎ、すごく恥ずかしい思いをしたからです。高校はプールのない学校を選んだほど、苦手意識が強く、さらに高校生のときには海でおぼれかけたこともあります。しかし、私が人に「変わることができます」などと言いながら、自分自身がこのような苦手意識を持つのは良くないと思い、挑戦することに。プールで3カ月間、泳ぎを練習し、プロ試験に合格しました。