悩んだり、イライラしたり、日々浮き沈みする心を穏やかにしたい……。そんな悩みに、心理カウンセラー僧侶の羽鳥裕明さんが寄り添い、仏教と心理学の視点からヒントをくれるこの連載。5回目は、身近な人の理不尽さにイライラしてしまったとき、どんなふうに活路を見いだせばいいのかについて考えてみましょう。

自分の考えに固執せず、相手の声に耳を傾けることで新しい発見につながる!
自分の考えに固執せず、相手の声に耳を傾けることで新しい発見につながる!

 身の回りの環境に苦手な人がいるときは、心に常に「恐怖心」のアンテナが立って、相手の言動に振り回されてしまうもの。そんなときは、相手との心理的な距離を置いてみたり、仏教の「曼荼羅(まんだら)」のような人間関係図を描いてみることで、相手への過剰な苦手意識が和らぐこともある——といった話を前回はさせていただきました。

 ただ、人間関係は難しいもので、こちらから距離を置くという対処だけではなかなかスッキリしない、ということも日常にはあるものです。

 例えば、相手の言っていることが明らかに間違っているのにそれを受け入れなくてはならないとき。上司の言い分には納得ができず、自分の考えのほうが絶対に正しいと思える。「こちらの考えのほうが正しい!」と思えば思うほど、従わなくてはならない状況を理不尽に感じるものです。このようなとき、私は仏教における「六道」という言葉を思い起こします。

【ミニ知識】人の悩みに関わる仏教用語の深い意味

六道輪廻(ろくどうりんね)
人の心のありかたを示すともいわれる「六道」。天は楽の多い世界。人間界は四苦八苦のある世界。修羅は戦いを繰り返し、畜生は互いに殺し合い、餓鬼は欲望の塊で、苦しみの多いのが地獄とされます。どの世界にあっても救いの手を差し伸べてくれるのが「六地蔵」。現世での行いによって来世でどの世界に生まれ変わるかを示すのが「六道輪廻」という言葉です。