ありのままの自分に勇気をもって目を向けよう

 例えばコンピューターに不具合が発生したときには、「この部分にエラーが生じているようだから、補わないといけないな」と客観的に考えられるものです。しかし、人間は機械ではなく感情を持っている生き物ですから、自分が不安や恐れを感じているという事実を直視しにくいのです。しかし、勇気をもって弱点を含めたありのままの自分に目を向け、「自己概念」と「自己経験」のギャップを冷静に把握することこそが大切なのです。

 実際に、その道のプロであるほど、自分の弱点に目を向けるトレーニングを繰り返しています。プロスポーツ選手などは、コーチをつけて自分のフォームを見てもらったり、動画で何度も自分の動きを見直して、弱点と向き合います。そこから、「今の自分がやりたい目標」を明確にし、練習を積んでいくのです。

 仏教でも、このように「ありのままの事実を明らかにする」ことが重要だととらえています。意外かもしれませんが、「諦める」という言葉の語源は「明ら(あき)らむ」つまり「明らかにする」ということで、決してネガティブな意味合いではありません。現在では、一般的には、願いごとが叶わず思いを断ち切る、という意味で「諦める」という言葉が使われることが多いのですが、仏教的には、事実を明らかにし、客観的に見ることで現状を受け入れ、解決方法が浮かび上がってくる、という意味合いでこの言葉を使うことがあります。