今の日本に圧倒的に足りていないもの。それは女性のリーダーです。120位というジェンダーギャップ指数からもそのことが浮き彫りになる中、「大きな組織のトップ」というバトンを受け取った注目のリーダーたちは、どのように考え、自分の色を出しながら動いているのでしょうか。そして、彼女がリーダーになった理由とは? トップダウンでも、ボトムアップでもない、これからのリーダーに必要とされるスキルについても考察します。

 2019年4月にマネックス証券の創業者、松本大さんの後任として、マネックス証券の代表取締役社長に就任した清明祐子さん。松本さんが清明さんに送ったたった一つのアドバイス、そのアドバイスを受けた清明さんの思いとは? 対談の最後には、リーダーになることに躊躇(ちゅうちょ)する女性に向けて、清明さんが自分の経験を交えながら「役職の箱や型に合わせ過ぎないほうがいい」と話してくれました。

未来志向であり続けるのは難しい

―― (上)の「マネックス会長 渡した権限は、使ってもらわないと困る」では、松本さんが「権限を与えられた人は、その権限を使い切ることが大切」と話していました。その真意について教えてください。

松本大さん(以下、松本) 権限を渡された人が私と同じ考えやプロセスで進めるのは、マトリョーシカ人形のように蓋を開けるとどんどん小さくなっていくだけ。それでは組織が発展しませんし、権限を与えた意味がない。でも、権限を使い切ってくれる人って案外いないんですよ。

清明祐子さん(以下、清明) 松本さんに「あれどうなった?」「これはいつまで?」とか細かく言われていたら、きっと私は今、ここにいないですね。2011年に、社員5人の子会社マネックス・ハンブレクトの社長に就任したときも細かいことは言われなくて。当時は、マネックスグループのオフィスを間借りしていたんですけど、親会社なのにまったく家賃を安くしてくれないから、「出ていきます」と言って。それで人件費が1人分浮いたんです(笑)。報告だけはしっかりしていましたが、基本的に自由にやらせてもらっていました。

マネックス証券代表取締役社長 清明祐子(せいめい・ゆうこ)さん
マネックス証券代表取締役社長 清明祐子(せいめい・ゆうこ)さん
京都大学経済学部卒業後、三和銀行(現在の三菱UFJ銀行)を経て、2006年プライベート・エクイティ・ファンド「MKSパートナーズ」へ。ファンド解散決定後、09年マネックス・ハンブレクトに入社。11年には代表取締役社長に就任。19年にマネックス証券代表取締役社長、20年に持ち株会社であるマネックスグループ代表執行役COOに就任。21年よりマネックスグループCFOも兼任

―― 松本会長から見た清明さんはどういうリーダーだと思いますか。

松本 よく分かりません。私が気になるのは、結果だけ。自分も含めて経営者は結果を出すのが仕事ですから。例えば、「これはどうなっているんだ?」と聞いたら、「やりました」と返す人がいる。別にやったかどうかはどうでもよくて、聞きたいのは結果だけです。

清明 松本さんを見ていて、絶対にまねできないなと思っていることがあって。「呪文のようなメールを読みました、以上」っていうのもそうなんですけど、常に「今から先」しか見ていないんですよ。絶対に未来志向なんです。

 上の立場になればなるほど、今の仕事ではなく、将来のことや新しいことを考えないといけなくなります。社長の仕事はそれがすべてだと言う人もいます。でも、やっぱりそれは難しい。目の前には事業がある、社員もそこにいる。何か考えるときに、過去はどうだったかということを無視するわけにもいかない。そんな状況で決断をしていくわけなんですが、松本さんは、ずっと明日、3年後、10年後を見ている。常に今から先の未来なんです。

松本 それは優劣ではなく、ただの違いですよね。私が正しいとも限らない。逆に私のやり方は、頑張ってきた人の努力をあまり考慮しませんから。清明は多分そこがもっと丁寧で、しっかりと「これまで」も見ている。だから、私は清明が社長をやることについてはほとんど心配していなかったんです。でも、一つだけ、本当に一つだけアドバイスしたのを覚えていて。

清明 ええ、何でしたっけ……? きっと言われたら思い出すと思います。