「無鉄砲な挑戦」は若者の専売特許ではありません。40代、50代を迎えてから高い壁を越えようと果敢に挑む女性たちがいます。俳優、プロ競輪選手、医師、ワイン醸造家……人生経験を積んでからの挑戦には、20代の挑戦とは違う苦労、そして喜びがあると彼女たちは口にします。何が彼女たちを駆り立てたのでしょうか。年齢の壁をものともせず、新たな使命に向かって突き進む女性たちの挑戦に迫ります。

 NHKのアナウンサーとして、情報番組や教養番組の司会、大河ドラマ『西郷どん』のナレーションなど多方面で活躍していた島津有理子さんは現在、医師を目指して大学の医学部3年に在籍しています。44歳だった2018年の春に医学部挑戦を思い立ち、その年の秋にはNHKを退局して大学に編入したという超スピード展開。自身でも充実していたと語るキャリアを手放し、なぜ思い切りよく人生のかじを切ることができたのでしょうか。

島津有理子(しまづゆりこ)/元NHKアナウンサー。東京大学経済学部卒業後、1997年にNHK入局。『NHKニュース おはよう日本』『NHK海外ネットワーク』『ゆく年くる年』『NHK紅白歌合戦 ラジオ中継司会』『100分de名著』など多数の番組でキャスターを務める。また特派員として、2010年から12年までニューヨークのNHKアメリカ総局に勤務。18年にNHKを退職し、現在は大学の医学部3年に在学中。夫と小学2年生の娘、6歳の息子の4人家族。
島津有理子(しまづゆりこ)/元NHKアナウンサー。東京大学経済学部卒業後、1997年にNHK入局。『NHKニュース おはよう日本』『NHK海外ネットワーク』『ゆく年くる年』『NHK紅白歌合戦 ラジオ中継司会』『100分de名著』など多数の番組でキャスターを務める。また特派員として、2010年から12年までニューヨークのNHKアメリカ総局に勤務。18年にNHKを退職し、現在は大学の医学部3年に在学中。夫と小学2年生の娘、6歳の息子の4人家族。

「自分の内側からあふれ出る生きがい」って何だろう?

―― 島津さんがNHKを辞めて医学部に入学したのが今から3年前。司会を担当していた『100分de名著』で取り上げた、精神科医・神谷美恵子さんの『生きがいについて』という本に出合ったことが挑戦のきっかけだそうですね。

島津有理子さん(以下、敬称略) はい。ただ、本のことがクローズアップされて紹介されることが多いのですが、実際はもう少し複合的な背景があります。

 アナウンサーとしておかげさまでずっと楽しく仕事をしてきて、40代になり「人生の後半、さてどうしようかな」と何となく考えるようになっていました。といってもNHKを辞めようとは全然思っていなくて、何か新しい勉強や趣味を始めたいというくらいの感じです。K-POPが好きだったのでハングルを学ぼうかなとか、アナウンサーの経歴を生かして日本語教師の資格を取るのもいいかな、とか。そんなふうにあれこれ考えつつもぴたっと来るものがなく、何となくそのまま過ごしていました。

 そんなときに『生きがいについて』というタイトルを見て、「そうそう、私が求めていたのはこれ!」と思いました。番組で紹介したのが2018年5月なので、読んだのはたぶん3月か4月くらいかな。私は最初、この本で生きがいについて教えてもらおうというつもりで手に取ったのですが、想像していたようなことは全く書いてありませんでした。でも、「生きがいというのは外から与えられるものではなく、自分の内側からあふれ出てくるもの」といったことが書かれていて、心に引っかかりました。

 神谷さんはこの本を出版した1960年代当時、ハンセン病療養施設で働いていました。そこで、世の中から隔絶され病に苦しむ絶望的な状況にあっても、希望を見いだして生きている人々を目の当たりにして、生きがいについて深く考えるようになっていったんですね。

 自分の心の内にあるものは何だろうか……そう考えたとき、子どもの頃から医師になりたいと思っていたことが頭に浮かびました。大学受験のときには進路に迷いが生じて結局医学部は目指さなかったものの、ずっと興味はあったなと。

 それとほぼ同じ頃に、もう一つ決断の後押しになる出来事がありました。

「本の中にある『生きがいは自分の内側からあふれ出てくるもの』という考え方が心に引っかかり、自分の内面を見つめ直しました」(島津さん)
「本の中にある『生きがいは自分の内側からあふれ出てくるもの』という考え方が心に引っかかり、自分の内面を見つめ直しました」(島津さん)