男性社会の中で働く女性のさまざまな生きづらさを発信してきたARIA。ふと見ると、「男らしさ」を求められてきた男性たちもモヤモヤを抱えている様子。その正体は何なのでしょうか。この連載では、男性学の研究者、田中俊之さんに男性ゆえに生まれる生きづらさや葛藤の原因をひもといてもらいます。今回のテーマは「独身はマイノリティーじゃない」です。

誰もが結婚する「皆婚社会」の終わり

 結婚しない男女が増え続けています。

 2020年の国勢調査によると、50歳時点での未婚率(いわゆる生涯未婚率)は男性28.3%、女性17.8%。これは45~49歳、50~54歳の未婚率を平均して算出した数字で、5年前より男性は3.5ポイント、女性は2.9ポイント増えています。

 僕たちが子ども時代を過ごした1980年代はまだ、みんなが結婚する、いわゆる「皆婚社会」でした。80年の生涯未婚率は男性が2.6%、女性が4.5%(1980年、国勢調査)。だから「男は結婚して一人前」などと言われていましたが、この40年間で生涯未婚率は急速に上がり、独身はマイノリティーではなくなった。誰もが結婚する時代は終焉(しゅうえん)を迎えたのだと思います。

誰もが結婚して家庭を持つ時代は終わりを迎えた
誰もが結婚して家庭を持つ時代は終わりを迎えた

 2022年6月8日付けの日経新聞に掲載された「『生涯未婚』非正規男性の6割 将来への不安根強く」という記事も大きな話題を呼びました。記事によると、正社員男性の50歳時点での未婚率は19.6%ですが、非正規(派遣、パート、アルバイト)社員の男性は60.4%。収入や雇用の安定が男性の結婚に影響を与えていることは明らかです。一方、女性の場合は逆で、同世代の正規雇用で働く女性の50歳時点の未婚率は24.8%、非正規社員は10.3%。男性ほど差が顕著ではありませんが、女性は収入や雇用が安定しているほうが未婚率が高い傾向にあります。

 さらに、20年時点で非正規社員の40~44歳の男性の未婚率は70.1%にも達しています。それはまさに氷河期世代。5年後、10年後に、非正規社員男性の生涯未婚率は今以上に増えることが予想されます。

 これは単に、男性が正規雇用されて収入が安定すればよいという問題ではないと思います。ジェンダーギャップ指数が低い日本は、女性の社会進出が進んでいないことが着目されますが、男女の賃金格差がある社会だからこそ、男性には「稼ぎ手」としての期待が根強くある。

 女性の非正規雇用率は男性よりも高く、正規雇用であっても男性とは賃金差がある。自分の収入が少なければ、結婚相手に「稼ぎ手」として安定した収入を求めたくなるのもうなずけます。解消されないジェンダーギャップは、収入が安定しない男性の結婚にも、実は影を落としているのです。だからこそ、男性も女性も、正社員でも非正規社員でも、一人ひとりが自分で自分を養えるだけの収入を得られる社会であるべきだし、お互いに支え合う結婚であれば、相手に求める条件も変わってくるはずです。

 こうして50歳の未婚率が上がる一方で、若者には恋愛離れが起きています。