朝から晩までスマホ依存で「スマホ脳」になりつつあり、さらに複数の作業を同時進行する「マルチタスク」が日常的な私たち。便利でもはや手放すことができないスマホやデジタル機器は、使い過ぎると「睡眠」にも影響を及ぼします。脳科学を研究する早稲田大学理工学術院教授の枝川義邦さんに、デジタル機器が私たちの脳と眠りにどう関わるのか、さらに、快適な睡眠を得る方法を聞きます。
(1)「スマホ脳」が引き起こす脳疲労 記憶・集中力が下がる
(2)スマホアプリの問題点 マルチタスクがストレスの原因に
(3)睡眠負債 スマホのブルーライトより〇〇〇が悪影響 ←今回はココ
「寝る前スマホ」で寝付きの悪さが1.48倍に
編集部(以下、略) なかなか寝付けず、熟睡感もないという「眠りの悩み」を抱えることが多くなっています。眠りにもスマホの影響があるのでしょうか。
枝川義邦さん(以下、敬称略) よく知られているのがブルーライトによる睡眠の質の悪化です。
起床時に光を浴びてから14~16時間後に分泌するメラトニンというホルモンは、眠気を促すホルモンです。しかし、スマホなどのデジタル機器や蛍光灯の明かりに含まれるブルーライトを浴びるとその分泌が抑制されることが分かっています。人間の脳そのものの性質は太古の頃から変わっていない。まぶしい環境にいると人は覚醒するようにできているのです。
もう一つ、ブルーライトよりももっと影響が大きい、といわれつつあるのがSNSやメールによる「脳の興奮」です。内容が心穏やかなものならばよいですが、メールのやりとりなどで何らかのストレスが刺激されると、ストレスホルモンのコルチゾールが出たり、思い悩んで眠れなくなったりします。
―― なるほど、脳が「眠っている場合ではない」という状態になるのですね。実際に、スマホによる睡眠への悪影響についてはどんな研究が行われているのですか。
枝川 多くの調査があります。まず、ベルギーの成人男女(18~94才)のスマホ使用と睡眠習慣について調査した研究では、消灯後にメッセージのやりとりや電話の送受信をしている人は睡眠の質スコアが下がっていました。具体的には、寝付きの悪化、睡眠障害の増加、日中の機能障害の増加、倦怠(けんたい)感などを引き起こしていました。
―― やはり寝室にスマホを持ち込むのはNGですね。
枝川 そうですね。寝る前に見るとしたら、テレビ画面で動画を見るほうがまだ影響が少ないといえます。日中のデジタル機器使用と就寝前のデジタル機器使用が睡眠に与える影響を調べたノルウェーの大規模調査もあります。これによると、寝る前のスマホは寝付きの悪さリスクを1.48倍に、日中の使用でもスクリーンタイム(スマホ使用時間)が4時間以上を示した場合は睡眠不足リスクを1.72倍にします。
―― デジタル機器と密に付き合うと睡眠不足のリスクも上がるのですね。健康にはどんな影響があるのでしょうか?