アイドルとして活動する一方、10代でアメリカ映画に出演。ハリウッドへ拠点を移して映画主演を果たし、現在は富士山の麓で農業にいそしみながら女優としての活動を続ける――。誰も成し遂げたことのない快挙を達成しながら我が道を突き進み、「今が一番幸せ」と笑う工藤夕貴さん。その半生から、変化を恐れず前進するヒントを探ります。

(1)渋々出た映画がハリウッド女優への切符だった
(2)シッターや日本語教師でつないだLA生活
(3)農業を始めて20年 女優のキャリアも更新中 ←今回はココ

未経験者が広大な農園を運営するまでに

 約8年間のハリウッド生活を終え、2005年に帰国した工藤さん。オーガニックな食生活で体調が改善したことから、女優の仕事をしながら農業ができる土地で生活することを決意します。ただ、自宅の庭や市民農園での野菜づくりは経験していても、本格的な農業は未経験でした。

 「アメリカにいた頃、あるカナダの女性と知り合ったんです。彼女はインターネットで仕事をしながらファームに住んで、自分が育てた野菜を使って料理する生活をしていて。私はそのファームにひと夏滞在して、農業や乳牛の世話を手伝ったり、家を建てるのを助けたりしていたんです。

 その時に、『自分が理想としていた生活って、こんなに簡単にできるものなんだな』『できないって自分で決めつけてただけで、やろうと思ったらできるんだ』っていうことを感じたんです」

「自分が理想としていた農業生活は、決断したら意外になんとかできてしまいました」(c)沼畑直樹
「自分が理想としていた農業生活は、決断したら意外になんとかできてしまいました」(c)沼畑直樹

 農業のノウハウをある程度身につけた工藤さんは、仕事のために東京へのアクセスは確保しながら、憧れの生活を実現するために富士山の麓に拠点を移します。

 「まずは、隣近所がないところに住みたかったんですよね。そして空気がきれいで、水が良くて、景色がいいところに住みたかった。それなら本栖湖の近くがいいなとか、富士山が見えるところがいいかな……と考えて、1年半くらいかけて今の土地を探して。アメリカの家を売ったお金で、静岡県の富士宮市に家を建て、農園をつくりました」

農園で作業する工藤さん (c)沼畑直樹
農園で作業する工藤さん (c)沼畑直樹

 当初は約30坪だった農園も、どんどん大きくなっていきます。農薬や化学肥料を使わない有機農法から始め、野菜は13年前からは全て自然農法、お米は10年前から半分は自然農法、残りの半分はアイガモ農法を併用し試行錯誤しながら育てていましたが、結果的に、昨年からは完全な自然農法を行っています。

 「約20年農業とつきあってきて、苦にならなかったというと嘘になります。ただ肥料や農法を研究して前へ進むということをし続けて、13年前くらいから自家採種するようになって。去年の新型コロナウイルス禍でもっと腰を据えて農業を続けようと思い、すべて自然農法に切り替えました」